疑念を抱いた里佳子

悟の態度は、ここ最近ますます露骨になってきている。

平日の夜は帰りが遅く、休日もゴルフや付き合いだと言って出かける。家のことに口を出すこともなく、話しかけても上の空。まるで、自分には関係ないとでも言いたげだった。

生活費のやりくりは限界に近かった。娘の学用品や息子の園の集金に加え、食費や日用品の物価もじわじわ上がっている。それでも悟に増額を頼めば、「今のままで十分だろ」「贅沢してるんじゃないのか」と、決まって突き放される。

そのくせ、夫のまわりでは次々と新しいものが増えていた。ゴルフバッグ、ウェア、道具。出費を惜しまない様子が、帰宅するたびに目につく。

――こんな使い方して、大丈夫なのかな。

疑念が確信に変わったのは、そんな思いが積もったある午後だった。

子どもたちが静かに遊んでいる間、里佳子はリビングの引き出しを開けた。手を伸ばしたのは、共通名義の通帳。結婚当初、家族のための積立として開設した口座だ。数年前から管理を任されなくなっていたが、引き出しの奥にまだ保管されていた。通帳を開くと、すぐに目に飛び込んできたのは、想像をはるかに下回る残高だった。

「嘘……」

ページをめくるたび、心が冷えていく。

ここ1年、月に数度、数万円単位で定期的な出金が続いている。生活費とは別の支出。目的も、理由も定かではない。

ただ夫婦のお金が、消えている。

立ちすくむ里佳子の背後の窓から夕暮れが近づいていた。

●夫・悟のゴルフ三昧の生活に不満を募らせながらも、限られた生活費でやりくりを続ける里佳子。疑念を抱き、共通名義の通帳を開くと、そこには想像を下回る残高と定期的な出金の記録があった…… 後編【「一度でも向き合ってくれた?」家族で貯めたお金の使い込み、驚きの行方は…夫の裏切りに妻が下した決断】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。