FRB理事の発言と動向

こうした中、今週はハト派とされるウォラー理事の発言機会がありました。パウエル議長が、ようやく利下げに前向きなスタンスへ変化した後だけに、ウォラー理事がかなりハト派的なメッセージを発した場合、ドル安が進む可能性があると先週の動画でお伝えしました。

ただ、実際の発言内容は極めて妥当なものでした。具体的には9月の利下げについて50bpではなく25bpの利下げを支持すると発言したのです。その後の追加利下げについても、連続して行われる可能性がある一方、利下げ打ち切りとなる可能性にも言及しています。

もともとウォラー理事は関税がインフレに与える影響は一時的なもので、寧ろ労働市場の悪化に対し、ワードルッキングな対応が必要との意見です。一部ではトランプ大統領に指名されただけに、かなり積極的に利下げを主張するのでは、との見方もありますが、実際にそういったことはないでしょう(10ページ)。

 

 

 

今週はクック理事が解任されたことを受け、FRBの独立性や金融政策の中立性への疑念からドル安が進む場面もみられました。そこで、現時点のFRB理事の陣容を整理します。

まず、理事に就任する為には、大統領からの任命を受けた後、上院での承認を得る必要があります。このため大統領の一存だけでFRB理事が決まるわけではないと言う点を認識する必要があります。尚、表の中の水色は民主党の大統領、ピンク色は共和党の大統領によって理事に指名された人を指しています。

現在、7人中4名の理事が民主党、3名が共和党となっています。この内、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長であったミラン氏は現在、上院での承認待ちとのステータスで、次回9月のFOMCまでにFRB理事に就任することができるのか、不透明な状況のようです。来年5月にはパウエル議長も任期を迎えることから、共和党大統領によって指名された理事が過半数を占めるようになるのは時間の問題です。

しかし、市場が懸念するようなトランプ大統領に対する忖度によってFRBが急に利下げを主導する方向へシフトするとは考えにくいです。なぜならFRB理事たちは退任した後も、主にアカデミックな世界でのキャリアが続きます。その際、仮にトランプ大統領への忖度によって利下げを主張し、その結果インフレが再燃すれば、自身の評判が傷つきます。

こうしたレピュテーションリスクを考慮すると今後就任するFRB理事たちも妥当な判断をすると考えられます。トランプ大統領が任命する以上、現在よりも利下げに前向きなFRB理事が増えることは確かですが、それはFRBの信任低下とは別の問題と言えます(12ページ)