祖父が亡くなる

数週間後、義一さんは静かに息を引き取った。

後に翔太さんは当時をこう振り返る。

「覚悟はしていたし、生前たくさん祖父と過ごした時間は今でも鮮明に思い出せる。悲しくないといえばウソだけど……」

葬儀が終わり、翔太さんは祖父の家を片付けながら、これからここで暮らしていくのだろうと考えていた。だが、それは甘い考えだった。

ある日、親族たちが集まり祖父の遺産についての話し合いが開かれた。

「まぁ俺たち兄弟で3等分でいいだろ」

叔父の一言に翔太さんは戸惑った。確かに義一さんには3人の子供、すなわち翔太さんの父と2人の叔父がいる。

義一さんは口頭で「畑と家を翔太に遺す」と言った。それがあれば十分ではないのか? そんな思いが巡り、翔太さんは頭が真っ白になって、気づけば声を上げていたという。

「ちょっと待ってください! おじいちゃんは僕に畑と家を遺すと言っていました」

自然と声も荒くなる。だが、その場にいた親類一同は冷たい目を向けた。

「そんな話、初めて聞いたな」

「遺言書がないなら、そんな口約束なんて何の意味もないだろう」

「それに相続人は俺たちだ。翔太は相続人じゃないんだから」

必死に訴える翔太さんに誰も耳を貸そうとしない。

厳しい現実が翔太さんへ突き付けられる

「証拠はあるのか?」

翔太さん父親であり、義一さんの長男でもある和弥さんが冷たく言い放つ。その瞬間、翔太さんは言葉を失った。それもその通りで、祖父の言葉を証明するものが何もなかった。あるのは義一さんと翔太さんの会話のみだ。

しかし、録音もなければ、メールや手書きのメモすら残っていない。

翔太さんは絶望した。

●気になる相続の行方は、後編【「お前に畑と家を遺す」祖父から孫に口約束で伝えられた遺贈の意思、親族間トラブルを経てたどり着いた「驚きの結末」】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。