<前編のあらすじ>
義一さん(仮名、以下同)は入院中の病室で、孫の翔太さんに「お前に畑と家を遺す」と遺贈の意思を伝えていた。
祖父の家は翔太さんにとって「帰る場所」であり、感謝の気持ちでいっぱいだった。しかし、義一さんが息を引き取った後、親族は「俺たち兄弟で3等分でいいだろ」と言い、生前の義一さんの意思を一蹴した。
結局、録音や遺言書がないため証拠が示せず、畑と家を受け取る予定だった翔太さんは現実の厳しさに直面してしまう。
●前編:【「ありがとう、おじいちゃん。大事にするよ」入院生活を献身的に支えた孫に、祖父が伝えた「最期のメッセージ」】
口約束の遺贈は有効なのか?
とある週末、私はバーで翔太さんの話を聞いていた。なんでも、一杯付き合ってほしいと彼が強く誘ってきたからだ。
「なぁ、相続人でない人へ口約束で遺産を渡す約束したとしてそれは成立するのか?」
翔太さんが突然話を切り出してきた。突然すぎて私は訳が分からず、とりあえずは一般論を答える。
「まぁ口約束でも遺贈の意思があれば有効だけど……それを証明する手段がなければ、現実的にそれは妄言でしかない」
翔太さんは力なく答える。
「だよなぁ……分かってるさ」
私は事情を察して言葉を返す。
「遺贈の意思があったことは間違いないだろうな。じいさん、お前のこと大事にしてたしな。でも、法律は感情で動いてくれないからさ」
そこから今回のいきさつを朝まで聞いた。話を聞けば聞くほどいろいろな話が出てきたが、どれも義一さんと翔太さんの遺贈には何ら関係がない。
遺言書がない以上、義一さんからの遺贈が履行されることはない。翔太さんの父親と叔父たちが認めてくれれば別だが、それが難しい以上、現実はどうしようもないのだ。