遺贈を確実に実行するにはどうすべきか
もし義一さんが相続人ではない翔太さんに畑と家を遺すなら、どんな対策がとれただろうか。方法はただ1つ、「翔太さんへ畑と家を遺贈する」という旨の遺言書を作成することだ。
そうすることで、他に相続人がいたとしても少なくとも家と畑は翔太さんのものとなる。
もちろん、他の相続分の相続分との均衡でいわゆる遺留分が問題となったりすることもあり、金銭的負担が生じる可能性も否めないが、家と畑の権利を得られること自体に変わりはない。
やはり遺贈を確実にするには、遺言書の作成が最も有効な手段である。
とはいえ、封筒に実印を用意して、という形の遺言書の作成はハードルが高いだろう。この点、自筆であり認印でも押印であるなど最低限の形式を保っておけばメモ書きでも遺言書として認められ、遺贈が有効となることもある。
いずれにせよ、義一さんと翔太さんの間でとどめておくべき話ではなかった。相続人を交えて話していたり、録画データで記録を残しておいたりすれば、法的にはともかく、感情的な面で話し合いの結果が変わったかもしれない。
その後の翔太さんは…
つい先日、翔太さんと会う機会があった。
「家と畑を継ぐことを了承した時のじいちゃんの顔が、いまだに忘れられない」
翔太さんは無念でいっぱいになっている胸の内を明かしてくれた。
地元が同じなので、彼の祖父の家と畑の現状はうわさ程度に聞いている。どうやらつい最近、彼の祖父の家は取り壊されたらしい。これから叔父の家が建つようだ。そして、畑はすでに買い手が決まってしまっているという。
「もし、遺言書があれば……」
翔太さんが涙をこぼす。
もしあなたが、誰かに財産を遺したいと思うなら、遺言書を書くべきだろう。また、誰かに財産を遺したいと伝えられたのなら、遺言書を書いてもらうべきである。それが、人の想いを確実に実現する唯一の方法なだから。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。