<前編のあらすじ>
夫・宏行さん(仮名、以下同)と妻・智子さんはともに65歳。2人とも、65歳からの老齢基礎年金と老齢厚生年金を繰下げ受給せず、65歳開始で受給することになりました。
宏行さんは自由な働き方が好きで、正社員あるいは非正規社員として会社に勤務したり、個人事業主になったり、仕事を転々としてきました。しかし、年金に影響が出るようになり、現在、生活するのに年金だけでは少し心もとない状態です。
宏行さんの勤める会社は70歳まで働き続けられることから、年金増額のために65歳以降も厚生年金に加入することにしました。宏行さんは将来どれくらい年金が増えるか確認するため、智子さんと年金事務所に向かいます。
そこで職員の説明を聞くと、宏行さんがこのまま厚生年金に加入を続けると、智子さんの年金も増えることが発覚しました。
●前編:【老後資金がまだ足りない…年金増額を目指し70歳までの厚生年金加入を決めた男性、のちに判明した「思わぬ恩恵」】
65歳以降の厚生年金加入で受給額が増える
窓口で宏行さんだけでなく、智子さんの年金も増えることを伝えられました。智子さんの年金も増える理由を見るにはまず宏行さんの年金の増え方を確認する必要があります。
厚生年金加入記録を基礎に計算される老齢厚生年金については、宏行さんの65歳時点(65歳の前月まで)での厚生年金被保険者期間219月で計算され、65歳から支給が始まることになっています。
しかし、65歳以降引き続き会社に勤めて厚生年金に加入すると、厚生年金保険料を掛けたその分も含め、後で老齢厚生年金の再計算がされることになります。つまり、再計算により、計算基礎となる厚生年金被保険者月数が増え、受給できる額も増えることになります。
今後このまま70歳になるまで勤務することを前提とすると、宏行さんの老齢厚生年金は以下のような厚生年金被保険者月数で計算されます。
①2025年10月分~ 230月で計算
②2026年10月分~ 242月で計算
③2027年10月分~ 254月で計算
④2028年10月分~ 266月で計算
⑤2029年10月分~ 278月で計算
⑥2029年11月分~ 279月で計算
①~⑤は在職定時改定制度によるもので、具体的には、毎年基準日(毎年9月1日)時点で厚生年金に加入中の場合、その前月・8月までの被保険者期間を基礎にその年の10月分から年金額が改定されることになります。
宏行さんの場合、2025年10月分からの老齢厚生年金は、2024年10月(65歳到達月)~2025年8月までの期間(11カ月)も含め、合計230月で計算した額で支給されるようになり、その分増えることになります(①)。そして、引き続き厚生年金に加入していれば、さらに1年後、2026年10月分からは、2025年9月分~2026年8月分まで(12カ月分)を含めた合計242月を基礎に計算されます(②)。その後は毎年、③④⑤のように、12カ月分(前年9月~8月分)ずつ加わって10月分から改定されることになります。
厚生年金への加入は最大70歳になるまでとなりますので、70歳になると厚生年金の加入がなくなり、そのタイミングで、⑥のように、70歳の前月(2029年9月)までの加入記録で70歳の翌月分(2029年11月分)から改定が行われることになります。年間130万円だった年金が段階的に増え、⑥の頃(70歳になる頃)には年間148万円になることになります。もし、途中で退職した場合は退職による厚生年金加入資格の喪失(※退職日の翌日が喪失日)の前月までの加入記録で退職の翌月分から年金額が改定されます。