家族の雰囲気まで変わった
壁のリフォームは無事に完了し、俊彦の発疹も、病院でもらった塗り薬のおかげもあって、しばらくたつと治まっていった。煩わしいかゆみから解放された俊彦は、今まで通り眠れるようになったらしい。
安美はと言えば、あの衝撃的な黒カビ事件以来、自宅の掃除と湿気(しっけ)対策に精を出している。ダニやカビの温床となりがちな家具の裏や隙間まで丁寧に掃除機をかけ、市販の衛生グッズで繁殖を予防することも忘れなかった。さらにシーツや枕カバーなどの直接肌に触れる寝具類は小まめに洗濯し、マットレスやカーペットなど洗濯機で洗えないものも定期的に裏返して風通しをよくすることを心掛けるようになった。安美の徹底した掃除と換気が功を奏したのか、家の中は以前よりも清潔に保たれているように感じる。もう過剰な湿気に悩まされることもなくなった。
安美が夕食の準備をしていると、リビングのソファに座って遼一と並んでテレビを見ていた俊彦がポツリとつぶやいた。
「なんか最近、家の空気が軽くなったよね」
「たしかにな。リフォームして良かったんじゃないか?」
そろって深呼吸を始めた似たもの親子の2人を見ながら、安美は思わずほほ笑んだ。2人の言う通り、家の空気は軽くなり、それに呼応するように家族の雰囲気も心なしか以前よりも明るく心地よいものに変わった気がする。
「そうだね、そろそろ長雨も終わるらしいから」
安美はそう言うと窓の外を見やった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。