余剰労働力×安い賃金による「世界の工場」もいよいよ限界が
2010年以降、なぜ中国経済の実質GDP成長率が10%に乗らなくなったのでしょうか。
中国経済が10%成長を続けていた時期、中国は「世界の工場」と呼ばれていました。それは人口が極めて多かったので、余剰労働力を活かして安い賃金で働かせ、安い製品を世界中に輸出していたからです。欧米各国、日本も含めて多くの先進国の企業は中国に製造拠点を設け、安い人件費で安価な製品を製造し、そこから世界中に輸出し続けました。2020年前後まで世界的にディス・インフレの状態が長きにわたって続いたのは、こうした流れで中国を通じ、世界中に安い製品が輸出され続けたおかげとも言えるでしょう。
しかし、それもいよいよ限界を迎えつつあります。
まず中国の安価な労働力を支えてきた、農村部の余剰労働力が枯渇してきたことが挙げられます。当然、余剰労働力が減れば、賃金は値上がりしていきます。それは、中国が世界の工場として、安い製品を輸出しにくくなったことを意味します。
しかも、農村部の余剰労働力が減っただけでなく、中国全体の人口が、かつての一人っ子政策の弊害によって、減少し始めたのです。中国国務院の数字によると、中国の人口は2024年の14億2500万人程度から、2035年には14億人、2050年には13億人に減少すると計算しています。
それでも今後10年は14億人の人口は維持される見通しですが、これまでひたすら人口増を続けてきた国が人口減少に転じるのは、極めて大きな構造転換です。
地政学リスクにより、外資マネーが退避している
これに加えて、先進国が中国に製造拠点を設け、そこから世界に安価な製品を輸出するという、これまで世界的なディス・インフレ要因だったビジネスモデル自体が、機能しにくくなってきました。その原因は中国の地政学リスクです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの経済レポート「空回りする中国の外資誘致策」(9月6日 丸山健太氏)によると、「直近2024年4~6月期の中国の対内直接投資(ネット)は▲148億ドルと、外資企業の撤退や資金回収が新規投資を上回った。四半期ベースで遡及可能な1998年以降、流出超は2023年7~9月以来2度目で、流出超過額は過去最大を記録した」とされています。
また同レポートでは、日本からの対中直接投資とその実行、回収の数字がグラフで示されていますが、それによると対中直接投資の実行額は2021年をピークにして減少に転じているのと同時に、2019年以降は投資の回収額が増加傾向にあることを示しています。
これまで中国経済の成長を支えてきた外資が、中国への投資を控えているだけでなく、回収にかかっているのです。
こうした中国への投資マネーの流れが逆転しつつあることも、中国経済に対して長期的・構造的に大きな変化をもたらす恐れがあります。それは決してポジティブな影響ではなく、ネガティブなものになるでしょう。
そして目先的な危機としては、不動産市況の悪化も無視できません。恒大集団(エバーグランデ)や中国碧桂園(カントリーガーデン)など不動産業者の経営難に見られるように、不動産市況の悪化が中国経済の先行き懸念を強めています。