決算書は企業の成績表とよく言われています。個別株への投資をしている人、あるいはビジネスパーソンとして、チェックしている人は多いはず。しかし、好決算を発表しても、株価が期待どおりに動かないことがあります。投資家や経営者は、どのように決算書を見ているのでしょうか?

資金繰り・経営改善コンサルタントの瀬野正博氏は、「経営指標の計算結果から、一見すると優良企業に見えて、本当は逆の経営状態になっていることもある」と語ります。

決算書の「違和感」を見つけられるように、瀬野氏に売上高を例にして、STEP1からSTEP7の流れで分析方法を紹介してもらいます。(全4回の2回目)

●第1回:【経営者はここを見ている!】企業の成長性がわかる「売上高成長率」の求め方は?

※事例「株式会社 成長の可能性がある」の損益計算書は第1回の2ページ目に掲載しています。

※本稿は、瀬野正博著『決算書の違和感からはじめる「経営分析」』(日本実業出版社)より、一部を抜粋・再編集したものです。

STEP3 売上高増加の理由を確認する

売上高の増加を確認したら、次に「どうして売上高が増加したのか」理由を考えます。売上高が増加するのには必ず理由があります。

ここで気をつけるべき点は、売上高が増加していても理由が「前向き」なものもあれば「後ろ向き」なものもある点です。売上高が増加する主な理由を、「前向き」「後ろ向き」の分類で紹介します。

1.前向きな増加理由

次の理由による売上高増加なら前向きに捉えることができます。

■新規顧客の増加
どの企業も取引先の廃業や他社への流出は一定数あると考えたほうがいいので、常に新規顧客を獲得するための営業活動は必要です。廃業などで離れた取引先よりも多くの新規顧客を営業活動で獲得できれば、売上高は増加します。この場合、営業力があり他社よりも優位な取扱商品があると考えられるので、今後の成長が期待できるでしょう。また、取引先が増えれば特定の企業に売上高を依存しないため、売上代金の回収不能リスクの影響を小さくできるメリットもあります。

■既存顧客へのフォロー
新規取引先の獲得は容易ではないため、既存顧客に対し、売った後にアフターフォローして、購入頻度を高めることも必要です。例えば生命保険なら、加入顧客に対してライフイベントに応じた見直しや新たな商品が提案できます。銀行なら、定期的な訪問を通して、経営者から経営上の悩みを聞き出し課題解決の提案をしたり、資金繰り表から早めに次の融資を提案し、経営者が本業に集中できるサポートをしたりすることが考えられます。取引先の自社のシェアを高めることも、売上高の増加につながります。

■新商品の開発・販売 
現在取り扱っている商品がこれからも売れ続けるとは限りません。むしろ商品には流行り廃りがあります。売上高の低下が始まる前に顧客が求める商品の取扱いや、新たな商品開発を行なう必要があります。

 ■自社の強みを打ち出した値上げ 
売上高は「単価×数量」で決まります。「たくさん売れた」「あまり売れなかった」と販売数量の影響を受けるイメージがありますが、販売単価も重要です。しかし、値上げ交渉が苦手な経営者が多いのが実態です。

原材料や燃料、人件費の上昇などにより費用の上昇を免れないことがあり、対応するには社内努力だけでは限界があります。そこで値上げとなるのですが、競合が多い場合、値上げは容易ではなく、「原価が上がっているので、値上げをお願いします」だけでは、応じてもらえないことが多いでしょう。

特に下請け企業は値上げの要請がしづらい立場にあります。企業にとって適正な販売価格を獲得するには、他社にはない優位性が必要です。 例えば、技術力、短納期、小ロット対応、商品開発力、迅速あるいは丁寧な対応などです。企業の強みを取引先が評価していれば、原価の上昇分の値上げ相談には乗ってくれるでしょう。

また、原価の上昇を、数字を使って説明するのも有効です。経済産業省が作成した「中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック」は、 価格交渉に役立つノウハウ・ツールが紹介されているため、交渉に悩んだ際は参考になります。 

値上げ交渉ができる企業は、適正な売上高及び利益が確保でき、事業が継続するでしょうし、一方で安さだけで勝負する企業は利益の確保が困難となります。

2.後ろ向きな増加理由

売上高が増加する主な理由は「売上単価の引き上げ」「販売数量の増加」の大きく2つですが、このうち「販売数量の増加」に重きを置いている場合は要注意です。

■薄利多売
値上げによって顧客が逃げるのではないかと強い不安を持つ経営者は多いです。売上高は「価格×数量」で求められるため、価格を下げて安さを売りに数量を増加させる薄利多売を考える経営者もいます。

値下げで販売数量が大きく増加し、利益を出せるのなら、薄利多売という選択肢も検討の余地はあります。しかし、資金的、人的な経営資源に限りがある企業にとっては、適切でない戦略です。

また、販売数量が急増し売上高が増加しても、販売数量が増えた分の人件費などの費用が増加し、利益額で見ると悪化することもあります。また、増加した仕入資金の支払いが先行し、売上高の入金が後になる場合であれば、資金繰りを悪化させることになります。