頂上で感じた頭痛
自然豊かな景色と初めての登山という高揚感もあって、あっという間に山頂に到着した。むしろあまりにもあっさり到着しすぎて、肩透かしを食らったような気分になる。
「ほら、良い景色でしょ?」
世那が指さす方向に目を向ける。確かに都内にいては、拝むことのできない景色だった。
しかし視界の隅が黒くにじんでいて、よく見えなかった。まるでピントのずれた望遠鏡で見ているようだった。さらに頭の奥にわずかな痛みを感じる。
「大丈夫? 何かあった?」
気付くと、世那がこちらに目を向けていた。
「……いや、別に。景色を見ているだけだよ」
「……そう? それじゃ少しだけ休憩して、下山しよっか。多分下山は3時間半くらいかかると思うから」
下山。世那の言うとおり、これがゴールではない。また戻らないといけないのだ。
「そうだな。そうしよう」
洋祐は歯を食いしばって、うなずいた。
●やせ我慢をしてしまった洋祐には、この先訪れる悪夢を予想できなかった……。後編【「もう少し早く音を上げていれば良かった」山道で動けなくなった夫が初秋にかかった「まさかの病名」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。