久方ぶりの母との再会
みやびが目を覚ますと、ぼんやりとした視界の中で病室の天井が見えた。次第にはっきりしてくる意識のなかで、何が起きたのかを思い出した。
(そうか。私、海でクラゲに刺されて倒れたんだっけ……)
「あ! みやび!」
みやびがおぼろげな記憶を手繰り寄せていると、病室のドアが開いて勢いよく茜が飛び込んできた。
茜は、ベッドに横になったみやびの手を強く握りながら、涙目で鼻水をすすった。
アナフィラキシーショックで意識を失ったみやびは、救急車で病院に搬送された。病院で投与された抗ヒスタミン薬とステロイド薬によって、アレルギー反応は無事に収まったとのことだったが、茜はみやびが死んでしまうのではないかと目を覚ますまで気が気ではなかったらしい。
みやびは大げさだよと笑ったが、本気で心配してくれる友人の存在をうれしくも思った。
「子供たちは香里に連れて帰ってもらって、私だけ病院に残ったの。私が海に誘ったせいで、こんなことになっちゃって……本当にごめんね」
「何言ってんの、茜は何も悪くないよ。私こそ迷惑かけてごめん。いろいろ大変だったでしょ。慶ちゃんたちにも悪いことしちゃったよ」
みやびは茜の手を握りかえしながら言った。
「でもね、私はパニックになってただけで何もしてないの。もうほとんど香里1人に任せきり。あ、そうそう。お母さんに連絡取ってくれたのも香里だよ。もうすぐ着くんじゃないかな」
「あ、そうなんだ……」
「勝手にごめんね。でもご家族に連絡しておいたほうがってお医者さんに言われて」
「よく連絡先知ってたね」
母にも連絡されていることにみやびは一瞬うろたえた。母とは何年も会っていない。少し指を動かせば電話一本で聞ける声すら、もうずっと聞いていない。話すほどのことではないだろうと、仲のいい2人にも家族については口をつぐんでいたのがあだとなっていた。
「ほら、香里って合宿の幹事やってたからさ。みんなの緊急連絡先、スマホ電話帳に登録してたんだよね。卒業してからも、みやびと私の実家の電話番号は消さずに残してあったらしいよ」
「そういうこと……」
みやびが観念してうなずいたとき、また病室のドアが静かにノックされた。みやびが声を上げると、看護師に肩を支えられながらつえをつく、母の姿があった。
「あぁ、みやび……! 大丈夫なの!? クラゲにやられたって聞いて。どこも苦しくない!?」
母はつえで身体を支えながら、みやびの横たわるベッドに歩み寄る。母のリウマチは相変わらずひどく、これではどちらが患者なのか分からないだろうと思った。
「うん……今は平気」
母の声に答えるみやびの声は固く、ほんの少しだけ上ずっていた。