何これ? 病院食?

それからも郁夫は毎回、昼ご飯にチャーハンを作り続けた。当然、作ることに対して慣れは出てきたのだが、味は諒子の作るものに全く及ばなかった。

食べきれない分のチャーハンは、ふらっと帰ってくる慎也に試食してもらうこともあった。しかし慎也の反応は、予想通りいつも芳しくなかった。

「何これ? 病院食? 味が薄すぎるでしょ?」

「だよなぁ。昨日はしょっぱすぎて食べれなかったから、今日は薄くしてみたんだよ」

「何見て、これ作ったの?」

「何を見て……? いや、諒子が作っていたのを思い出しながらやったんだが……」

慎也は郁夫の説明を見てあんぐりと口を開けた。

「マジで? だとしたら、よくできた方だよ」

「どういうことだ?」

「あのさ、料理初心者なら、普通レシピ本とかさそんなん買うでしょ?」

郁夫はすぐに反論する。

「もちろんそれは考えた。だけど、突然俺の部屋にレシピ本なんてあったら、諒子が感づくだろ? いちおう驚かせるためにやっているわけだし……」

郁夫の説明を聞き、慎也は腕を組む。それからスマホを持って何か操作をし出した。

「ほら、これで『チャーハン レシピ』とか調べれば、いい感じのレシピ無限に出てくるから。動画も記事もたくさんあるから、取りあえずそれをまねしてみたらマシになるんじゃない?」

「こ、こんなものがあったのか……」

せっかく紹介してくれたものの、老眼のせいか動画は画面が小さいし早すぎてダメだった。郁夫はレシピの紹介記事の文字を拡大しつつ、いろいろな料理を作り方を学んだ。チャーハンに関してはご飯を入れるタイミングやオススメの調味料を入れたことにより格段においしく作れるようになった。

だが、良いことばかりではなかった。

「だから、それをどうすればいいんだ⁉」

郁夫はスマホに向かって毒づく。

料理の工程でどうしてもタマネギをみじん切りしたかったのだが、切り方がイマイチ分からなかったのだ。

そこで記事を何度も確認したのだが、切る工程については書いておらず、丸かった玉ねぎが粉々にみじん切りにされた写真だけが載っている。

この制作者は、料理初心者の気持ちを理解していないと憤慨しつつ、仕方がないからスライスした玉ねぎの1つ1つを丁寧に細かく刻んだ。

他にも肉じゃがを作ろうとして、鍋いっぱいに作ってしまったことがあった。初心者はレシピ通りに料理を作れと言われ、記事の通りに作ったら、1人では食べきれない量になってしまったのだ。後から記事を読み返すと、4人分と書かれてあった。