自分優先な親たち
北海道在住の森山吹子さん(仮名・40代・既婚)の両親は、高校卒業後、大手建設コンサル会社で出会い、交際。母親のプロポーズで結婚し、母親が27歳のときに兄が、28歳のときに森山さんが生まれた。
結婚を機に母親は専業主婦になったが、森山さんが幼稚園に入園すると、結婚前まで勤めていた会社の仕事を在宅で再開し、森山さんが中学生になると会社勤務に戻った。
「父は口数が少なく家族に関心がなく、現役時代はゴルフばかり行ってました。母は社交的でプライドも高くハッキリとした性格で、家庭より自分優先な人でした」
子どもの頃は、母方の祖父母と同居していた。
「母方の祖父は口数が少なく温厚な人で、町内のためにいろいろな活動をしていました。祖母は母そっくりで、見栄っ張りでプライドが高い人でした」
祖母と母はそっくりと言うが、口数が少なく、“家庭より外優先”という点で祖父と父親もよく似ている。
森山さんは物心つくと、祖母も母親も兄ばかり大事にしていることに気付いた。洋服は、兄は着たいものを買ってもらえていたが、森山さんは兄のお古ばかり。森山さんが「◯◯に行きたい」と言えば頭ごなしに反対されるが、兄には「お金は出してあげるから行っておいで」という具合だった。
「父からは、『女の子はお嫁に行くから学歴は必要ない』『良い相手と結婚するのが幸せ』と言われていました。私は幼い頃から両親や祖母の扱い方が兄と違うことは感じていましたが、中でも強烈だったのは、幼稚園の頃、兄の真似をして母に甘えたら、私だけ『気持ち悪い』と言われたことです」
森山さんは母親に抱きしめてもらった記憶もなければ、遊んでもらったこともないという。
「母は家事が嫌いで、中学生になってからは、私が家事をしていました。『外でアルバイトしたいと言われたら家事をしてもらえなくなるから』と、バイト代として毎月2万円くれました。父は定時帰りがほとんどでしたが、母はよく飲み歩いていたし、繁忙期は徹夜で帰宅しない日もありました。まるで父親が2人いるみたいでした……」
虚飾の世界からの転落
森山さんは高校卒業後、大手化粧品メーカーに入社し、美容部員として働き始める。「1人暮らしをしたい」と言ったが、「するなら2度と敷居を跨(また)がせない」と父親から脅され、渋々実家から仕事に通っていた。
「職業柄、美意識が高い集団に属し、最先端のメイクやファッションに身を包んだ先輩たちはかっこ良くて、若かった私はすぐに影響を受けました。お給料が出れば洋服や靴を爆買いし、ボーナスが出るとハイブランドのバッグを入手。当時はノルマもあり、売上額に達しない日は自ら高級シリーズを購入し、数字を作っていました。今思えば、先輩たちも借金していたのだと思います」
森山さんはカードのキャッシングや消費者金融を利用するようになった。
当時の森山さんには高校の時から交際していた同級生の彼がおり、スーツや下着、食べ物などを買い与えるだけでなく、彼に会いに行く旅費もホテル代も食事代も全て森山さん持ちだった。
やがて森山さんは、借金やノルマによるストレスでメンタルをやられ、22歳で退職。さらに、森山さんを金づる扱いしていた交際中の彼には振られてしまう。
心も体もボロボロになった森山さんには、
・消費者金融2件
・信販会社1社
・カードのキャッシング満額
・カードも満額
・矯正下着のローン
合計230万円の借金だけが残り、過食や大量のアルコール摂取を繰り返すようになった。