「自動移換」の3分の1は資産額がゼロ

2023年3月末の自動移換は118万人、その資産額は2818億円を記録しました。この10年間で人数・金額ともに3倍以上に増加しています。企業型DCの加入者数が2023年3月末で805万人ですから、その数の多さがわかります。実は企業型DCの「事業主返還」の存在も自動移換を増加させている要因の一つです。

多くの企業では、勤続期間3年未満で自己都合退職した場合、それまでの事業主掛金を事業主(会社)に返還するという設定があります。勤続3年未満で中途退職し、かつ加入者掛金(マッチング)拠出をしていない場合、企業型DCの資産が僅少もしくはゼロ円になってしまいます。

そうしたゼロ円の自動移換者は44%を占めています。つまり、「移換」しようにも移すべき資産がない人が多いということです。自動移換に対応している国民年金基金連合会では、移換資産がゼロ円の人には、下記のような案内をしています。

◎ 確定拠出年金に加入されていた期間等に関する情報のみ管理しておりますので、移換手続きは不要です。
◎ 今後、企業型確定拠出年金または個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入される場合には、過去の加入期間が通算され、老齢給付金の受給可能時期が早まることがありますので、「以前、企業型確定拠出年金に加入していたが、現在、自動移換の状態にある」旨をお申し出ください。

「自動移換」にならないために

移換すべき資産がある場合の手続きを再度、考えてみましょう。「自動移換」にならないためには、ご自身で忘れずに手続きを行いましょう。その際、目安となる期限が退職後半年以内です。

厳密には、資格喪失日の属する月の翌月から数えて6カ月のため、3月末退職の方は10月末までに手続きされていれば自動移換にはなりません。ただ、手続き方法の選択肢が複数あるため、単純ではない面もあります。

ア)転職先に企業型DCがあれば企業型DCに移換する
イ)iDeCoに移換する(掛金拠出をする=加入者になる)
ウ)iDeCoに移換する(掛金拠出はしない=運用指図者になる)
 

従来、選択に迷って手続きを忘れる方も多かったと思いますが、今後はイ)のiDeCo加入者を選択の基本に考えてみてはどうでしょうか。数度におよぶ法令改正により、イ)を選べない人のほうが少数になっています。

2022年10月までは、ア)転職先の企業型DCが基本の移換先でした。企業型DCがある企業にお勤めの方は、イ)iDeCo加入者になることが選択できなかったためです。

2022年10月以降は、企業型DCでマッチング拠出をしていなければ、イ)iDeCo加入者になる選択が可能になりました。ちなみに、マッチング拠出が定められている規約の加入者数は、403万人と加入者全体(805万人)の約半数です。

そして2024年12月からは、会社員のiDeCo掛金上限額が基本的に2万円になります。その際の制約条件は「企業型DCの事業主掛金+他制度掛金相当額(DB部分)+iDeCo=5.5万円以下」です。

会社員の多くが、イ)iDeCo加入者を選択する契機になりそうです。つまり入社後にイ)iDeCo加入者を選択するのであれば、移換が必要になった時点でiDeCo加入者になっておく、という考え方です。

しかし、判断ポイントが複数あるため、ケースバイケースでの対応となります。イ)iDeCo加入者になれない(もしくは加入者になってもメリットが少ない)のは、下記のような場合です。

・他制度掛金相当額(DB部分)が2.75万円を超えている
・DCの事業主掛金額が5万円を超えている(iDeCo加入者になれない)

・DCの事業主掛金額が3.5万円超5万円未満(マッチング拠出のほうが手間がかからない、DBがある場合はiDeCo加入者になれない可能性もある)

DCを活用して資産形成を続けていくために、身近で相談できる場所(iDeCoのコールセンター等)を確認しておきましょう。