なぜなら父親は長年、母親からの暴言に悩まされてきたからだ。特に60歳で定年退職し、2年の嘱託を経て、完全に退職した後はひどいものだった。1〜2カ月に1度、森山さんが息子たちを連れて実家を訪れると、孫たちの前でもお構いなく、母親は父親の一挙手一投足にケチを付け、舌打ちし、「死ねばいいのに!」と暴言を吐く。それでも父親は一切言い返さなかった。
父親は定年後、友人に土地を借りて長年の夢だったログハウスを自分で建て、その周囲で家庭菜園を始め、自宅と行き来していた。母親は、52歳で仕事を辞め、友人とランチやお茶、買い物をして過ごしていた。お互いに好きなことをして暮らしていたようだが、働いていた頃より母親と顔を合わせる時間が増えたせいか、だんだんと父親は元気がなくなり、いつしかうつ病を患ってしまうまでになっていたのだ。
脱水症状と栄養失調を起こしてから、「母を1人で家に置いておけない」と思った森山さんは、「これからも自宅で生活したいなら、お父さんが透析へ行っている間はデイサービスに行って」と説得するが、母親は「車の送迎でご近所にばれるのが嫌だ」と言ってかたくなに拒否する。
もともと高血圧と糖尿病を患っていた父親は、2023年6月、糖尿病からくる腎不全と診断され、週3回、1回4時間の人工透析を受けることになる。
自分のことで精いっぱいだった父親は、母親が点滴だけで戻ってきた後、「母さんといることが限界だ」と泣きながら森山さんに電話してきた。森山さんはケアマネジャーに相談してすぐに施設を探してもらい始めたが、10月半ば、父親は自ら救急車を呼び、母親を1人残し、高血圧と糖尿病・腎不全を理由に入院を決めてしまう。
森山さんは1人では生活できない母親をなだめすかし、10日間で準備を整え、高齢者住宅に入居させた。
母親が自宅からいなくなったことを知った父親は「退院したい」と言い出し、帰宅。長年患っていたうつ病も、自宅に戻って2カ月で寛解した。