日本のアクティブETFの展望

日本では米国のようにETFが一般の投資信託よりも税制面で有利になることはなく、またアドバイザー(IFAなど)を介してのファンドの販売が主流ではない。従って、日本のアクティブETF市場は米国の2019年以降のように一気に規模を拡大するのではなく、欧州と同じように徐々に規模を拡大し存在感を増していく可能性が高い。日本の新NISAに関するレポートでも述べているように、新NISAで資金を集めているのは低コストのインデックス・ファンドであり、投資家の低コスト・ファンドへのニーズは大きい。この点で、アクティブETFはそのニーズを満たす要素を持 ち合わせていると言えよう。また、新NISAでは日本株式の配当利回りに着目したフ ァンドにも資金が集まっている。配当利回りに着目したファンドは、主に定量スクリーニングに基づきポートフォリオが構築されるため、比較的運用費用を抑えることができ、またアクティブETFにおける保有銘柄の日次開示による「秘伝のタレ」の流出リスクは高くない。実際、現存の11本のアクティブETFのうち4本は日本株式の配当利回りに着目したものである。

また、従来から高配当株指数などに連動するETFが設定され、投資家からの資金を 集めていた。これらはストラテジック・ベータ(またはスマート・ベータ)と言わ れる運用手法であり、運用自体は指数連動であるものの、指数自体が一般的な市場 指数とは異なりアクティブ要素を含んだものである。通常、ETF(およびインデックス・ファンド)は指数提供会社に対して指数利用料を支払うが、ストラテジック・ベータのような指数の場合、一般的な市場指数に比べ指数利用料が高くなる傾向がある。アクティブETFの場合、従来ストラテジック・ベータ指数が担ってきた役割(例えば、高配当株のみをスクリーニングで抽出するなど)を運用会社が指数提供会社の代わりに行うことで、ストラテジック・ベータ指数への指数利用料の支払いを避け(運用費用を抑え)つつ、ストラテジック・ベータと同様の投資成果を投資家に提供することもできよう。配当利回りは代表的な例ではあるが、他にもPBR等のファクターに着目したファンドなども存在しており、定量的なスクリーニングを軸とした運用を行うアクティブETFが当面の主流となるであろう。

まとめ

米国や欧州ではアクティブETFは依然として規模は小さいながらも着実に成長を遂 げている。特に米国では現物での設定および解約ができることによるETFの税効率 の良さなどを背景として、アクティブETF市場は急拡大している。日本においては アクティブETFは産声をあげたばかりであり、その市場規模や商品ラインアップを 評価するのは時期尚早であろう。アクティブETFの特徴としては、低コスト、透明 性、取引の自由度などの良い側面がある一方で、運用キャパシティや流動性の低い ETFについてはビッド・アスク・スプレッドが大きくなることでリターンを毀損する懸念なども存在するため、投資家は取引前に十分に留意する必要がある。

日本においては、アクティブETFは新規の運用戦略を採用しているものが多く、十 分な運用実績は示されていない。今後も既存の販売会社への配慮から、新規運用戦 略の立ち上げによるアクティブETFが主流となり続ける可能性は高い。これらの中でも既存の投資信託と類似の運用戦略を採用するアクティブETFがあれば、既存の 投資信託の運用実績は参考となり得よう。運用会社がこのようなETFを新規設定す る際は、どの既存の投資信託と類似の運用戦略であるか、など具体的な情報開示を 行うことで、投資家はそれらを参考とすることができるであろう。

また、日本ではファミリーファンド方式でETFが設定でき、これは米国におけるETF シェアクラスの設定と同等の効果をもたらす。すでに1ファンドがこの形式で設定 されており、この方式でETFの設定が進むことは、既存の投資信託の運用実績を参 考にして投資を行うことができるので、投資家にとってはメリットをもたらすであ ろう。

今後、日本のアクティブETFが個人投資家に受け入れられるか否かは、商品ライン アップの充実に加え、情報提供の充実も必要となろう。既存の投資信託とは異なり、ETFは販売会社経由での情報提供は無いため、アクティブETFに関する情報は投資家が自ら収集する必要がある。保有銘柄情報やパフォーマンス情報等を分かりやすく個人投資家向けに発信していくことが、アクティブETFの成功を左右することとなろう。

 

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