アクティブETFの種類
アクティブETF設定の際には幾つかパターンがある。以下はそれらをまとめたもの である。
新規運用戦略の立ち上げ
アクティブETFのための新たな運用戦略を開発しETFを設定する。通常、新規運用戦 略の立ち上げには時間やリソースを要すること、また運用実績が無い運用戦略とな ることが不利な点となる。代表例は「ARK Innovation ETF」や「JPMorgan Ultra-Short Income ETF」である。
同一運用戦略をETFに転用
既存ミューチュアル・ファンドと同じ運用戦略を持つETFを新たに設定する。既存 運用戦略であるため運用実績があり、運用戦略の特徴を訴求しやすい。ただし、オ ンライン証券等の販売プラットフォーム上では、規制および/または経済的な理由か ら、費用の高い既存ミューチュアル・ファンドの取り扱いができなくなる可能性がある。(同じものであれば一物二価は認められないので、費用の低いETFのみを取 り扱うということ。)Dimensional Fund Advisors(DFA)、Capital Group (American Funds)、T. Rowe Price などがこのアプローチで成功を収めている。
ETF への転換
新たなETFを設定する代わりに、既存ミューチュアル・ファンドをETFに転換する。 主には税効率の面からの需要に応じたものではあるが、数としては多くは無く、ア クティブETFの5%程度である。しかし、注目すべきは米国アクティブETFの純資産 総額上位10本のうち5本(全てDFAのETF)はこの形式によるものである。 ETFの転換が成功するポイントは、単にETFに転換してETFとしてのメリットを訴求するだけでなく、転換後も引き続き投資家をサポートするリソースや体制を整えることである。DFAは従来からアドバイザーを中心とした強固な顧客基盤があることに加え、もともと同社のアクティブ・ファンドの費用は相対的に低かったこと、また幅広い運用戦略を有していたことから、アクティブETFへの転換が成功した。しかし、ETFは万能ではないため、他の多くのミューチュアル・ファンドの場合、DFA のように成功することは難しいであろう。例えば、退職年金制度向けの顧客を多く 抱えていると、年金プラットフォームでETFを取り扱えないため、ETFへの転換は極 めて困難となる。また、販売会社網が確立し販売会社経由(12b-1手数料を課す)の販売が多い場合は、ETFに転換すると販売会社へのマーケティング費用の支払いができなくなるため、運用会社は既存の販売会社網を断ち切るような難しい決断を迫られることになる。
なお日本においては、一般の投資信託からETFへの転換は制度上は可能ではあるが、約款変更等が求められることや、ETFは銀行窓口での取り扱いが無いため、既存の銀行窓販経由の投資家の取り扱いをどうするか、という問題があるため現実的ではない。
ETF シェアクラスの設定
既存のミューチュアル・ファンドを維持しつつETFシェアクラスを追加する方法。 Vanguard が特許を取得しパッシブ運用戦略のみに認められていた形式だが、2023年5 月に特許切れとなっており、2024年3月時点で7社(DFA、Morgan Stanley、Fidelityな ど)がアクティブETFのETFシェアの設定をSECに申請している。これは、良いアクティブ・ファンドがETFでも投資できるということであるから、中長期的には投資家にとってメリットをもたらす可能性が高い。また、運用会社にとっても、新たな運用戦略を立ち上げる必要はなく、また退職年金制度や販売会社網のことも気にする必要はない。懸念点としては、既に存在しているキャピタルゲインがETFシェアの投資家にも分配される可能性があることや、ETFシェアの投資家には初期段階でポートフォリオの構築コストが発生することであり、これらがSECがETFシェアクラスを広く認めることに消極的となっている要因である。
非透明型ETF
前述のように、アクティブ・ファンドの運用者にとって、保有銘柄を日次で開示す るということは「秘伝のタレ」のレシピを公開するようなものである。この問題を 回避するのが非透明型ETFである。5年前にSECは初めて非透明型ETFを承認した。これは、一般向けにはETFの保有銘柄の日次開示は不要としつつ、取引がスムーズ に行えるよう指定参加者の代表に対してのみ日次開示を行うというものである。非 透明型に加え半透明型ETFという仕組みもあり、これらはETFの税効率のメリットを 得つつ、アクティブ運用の「秘伝のタレ」を守ることができるので、アクティブ運 用者にとっては理想的な形のように思える。しかし、FidelityやT. Rowe Priceなどの大手は早くから透明性のないETFを設定していたが、透明性のないETFは浸透していない。透明性がないことで、アドバイザーや投資家が混乱し、また近年、アクティブ型ミューチュアル・ファンドからアクティブETFに資金が流れ込むにつれ、ポートフォリオ・マネジャーも透明性をもたせることに抵抗感はなくなっていることが背景にある。透明性のないETF は2024年2月時点で50本存在し、52億ドルの運用資産総額である。「Fidelity Blue Chip Growth ETF」が最大のETF で、10 億ドルの純資産総額である。
日本におけるアクティブETFの設定形式
日本では上記の形式のうち、新規運用戦略をアクティブETFのために立ち上げると いう方法が現時点では主流となっている。これは既存の販売会社への配慮等から、 既存の投資信託と同じ運用戦略を持つETFを設定することを避けるためであろう。 なお、この場合でも、既存の投資信託の運用戦略にマイナーチェンジを加えてアク ティブETFとすることで、参考となる運用実績を示したり、新規運用戦略の立ち上 げまでの時間を節約することができる。
新規運用戦略の立ち上げ以外では、日本では既存マザーファンドの活用によるETF の立ち上げがある。これは、上述のETFシェアクラスの設定に近いイメージであ り、既存の投資信託(一般向け、確定拠出年金向けなど)はそのまま維持しつつ、 それらの投資対象であるマザーファンドに投資を行う、ファミリーファンド方式の ETFを立ち上げるという形式である。この方式では、既存の一般向け投資信託から、費用の低いアクティブETFへの資金移動が懸念されるため、既存の投資信託の販売会社への配慮から、この形式が採用できない運用戦略が少なくないであろう。しかし、既存の販売会社が積極的に取り扱わないような投資信託であったり、オンライン証券を中心とした販売となっている投資信託であれば、同一マザーファンドに投資を行うでアクティブETFの立ち上げへのハードルは低くなるであろう。この形式を採用したETFは、三井住友トラスト・アセットマネジメントの「SMT ETF日本好配当株アクティブ」(銘柄コード: 170A)であり、同ETFは「日本好配当株マザーファンド」に投資を行うものである。このマザーファンドは17年近い運用実績を有しており、同一マザーファンドに投資を行う一般向け投資信託は、「ニュー配当利回り株オープン(愛称:配当物語)」である。