<前編のあらすじ>
香世(43歳)は、ゴールデンウィークに夫と息子の勇太(11歳)を連れて義実家に帰省していた。毎年、義母と会わないといけないこの時期が嫌で仕方がなかった。義母は、太っている香世に対して「見てるだけで暑苦しいね」、「でかいのは身体だけかい?」など、執拗に容姿イジリをしてくるのだ。夕食の席ではなんと、すき焼きの肉を香世にだけ取り分けなかった。その時、勇太が突然自分の肉を「お母さんにあげる」と香世の皿に入れてきたが……。
●「でかいのは身体だけかい?」容姿イジリを平然としてくる義母…GW帰省でやられた「嫁への仰天すぎる仕打ち」
香世さんは痩せないといけないから
「勇太が食べなさい。お母さんは気にしなくていいから」
隆子の機嫌をとろうと、香世は勇太に言った。しかし勇太はそんな香世の言葉を無視して、別の肉も小皿に放り込んだ。
見かねた隆子が話に割り込んできて、
「1度取り分けたものを、そうやって人さまのところに移すんじゃないよ」
「何で?」
「勇太に食べてほしくて、買ってきたお肉なんだよ。それね、けっこう良い値段する高級なお肉なんだよ」
それはまるで香世に高い肉はもったないないと言っているようにも聞こえ、忍ばせられた悪意はまた香世を傷つける。
「俺、たくさん食べたから。別にもういいよ。残ってる分はお母さんにあげてもいいでしょ? さっきから、お母さんは肉を1つも食べてないし」
「なんだい、そうだったの? それなら言ってくれればいいのにね」
隆子はわざとらしく驚いて、香世の小皿を取り上げると、鍋のなかで小さくちぎれて取り残されていた肉を入れた。
「香世さんは痩せないといけないから小さめでいいね」
「なんで?」
「だってって、見てごらんよ。お母さん、暑そうだろ?」
隆子の言葉に香世は唇をかんだ。
「母さん、なんてことを言うんだよ」
さすがに我慢できなかったのか充人が割って入ってくる。しかしそんなものに意味はない。
「母親がだらしない見た目で恥をかくのは、子供なんだよ。授業参観もPTAも、パツパツのジーパンで来られたんじゃ、悪い意味で注目の的じゃないか。ねえ、勇太」
「別に、誰もお母さんのことなんて見てないよ。授業参観は、お母さんたちが俺たちを見に来るんだから」
勇太の語気が強まっているのが分かった。
円満に今回の帰省を終えるなら、きっと香世は勇太を止めるべきだと思った。けれど止めたくないと思った。
「お母さんの見た目のこと言うのなんて、おばあちゃんくらい」
「おばあちゃんはね、心配してるんだよ。太ってると病気のリスクだってあるんだから」
「でも病気なのはおばあちゃんだよ」
勇太が返す刀で発した言葉に香世は顔を上げた。隆子も驚いて目を見開いていた。
「え……?」
「だっておばあちゃん、お母さんのこと、いつもばかにしていじめてるじゃん。いじめって、アメリカとかだといじめるほうが病気なんだってYoutubeで言ってたよ」
勇太にはっきりと言われて、隆子は言葉が出ないようだった。
ごちそうさま。勇太はそれだけ言ってソファへ移動し、かばんから取り出したゲームを始める。
静まり返った居間では、勇太のゲームの効果音だけがやけに陽気に響いている。
香世は勇太が小皿に入れてくれた肉を頰張った。
ほろほろに柔らかいお肉が甘いだしとともに口のなかで溶ける。今まで食べたどのすき焼きよりもおいしいと香世は思ったのは、単に高級な肉だからではなかった。