人生初の海外旅行・ロンドンへ

海外旅行を選んだのは分かりやすかったからだ。周りの環境をガラッと変える。変化が1番、彩りとして分かりやすいと思った。

場所はヨーロッパ。映画を見ていてきれいな街並みだと感じていたイギリス、ロンドンを目的地に決めた。2月になり、美穂はたまりにたまっていた有休を使ってロンドンへ向かった。

東京からロンドンまでは飛行機で約15時間。少し悩んだが、父の遺産もあったので、思い切ってビジネスクラスにした。

ヒースロー空港に降りたつと、そこはもう英語と見知らぬ人しかいない世界だった。そこからすぐにエクスプレスに乗りロンドン市内へと向かう。パディントン駅を出た瞬間に、今まで見ていた景色と全く違うことに驚いた。

曇りが多いと聞いていた空は真っ青に広がっていた。イギリスは1日の中に四季があると言われている。駅の外にはクリーム色や茶色の建物が連なり、いろいろな人種や年代の人たちが歩いている。

美穂が日本では、見たことのない世界がそこには広がっていた。他人と違うことが当たり前の世界。

気候も寒いが、東京ほどではない。太陽の光が心地よく、体を温めてくれている。それ以上に美穂の体内の温度は感じたことのないほどに熱くなっていた。

映画の中に入ったみたい。

すぐに駅近くのホテルへチェックインを済ませ、重たい荷物から解き放たれた美穂は意気揚々と街へ繰り出した。まずはロンドンで有名なテムズ川にかかったタワーブリッジを渡り、ロンドン塔の周りを散策する。

テレビで見ている印象より、ロンドン塔はとても大きく、見上げるだけで疲れてしまいそうだった。

それから美穂は地下鉄に乗り、セント・ジョンズ・ウッド駅へと向かう。ロンドン市内はいくつもの名所があるが、それらのほとんどを地下鉄で移動できるのはすごく助かる。こんなに観光がしやすい都市もないのではないかと美穂は思った。

セント・ジョンズ・ウッド駅で降りた美穂の目的地はアビーロード。ビートルズの有名なアルバムのジャケットに使われた場所で今もなお、多くの観光客が訪れている。美穂はビートルズの曲を聴きながら、アビーロードにたどり着いた。

あまりにも平凡でどこにでもある横断歩道だが、数多くの人たちがそこで写真を撮ったり、ビートルズをまねて歩いたりしていた。一緒に旅をするような友達がいないことを少しだけ呪(のろ)いながら、美穂は横断歩道を渡る。

父も好きだった偉大なるミュージシャンと同じ土地を踏みしめられたことに感激しながら、また別の場所に向かって美穂は歩き出した。