年齢は関係ない
あるとき我慢できなくなって、道代は彼方に質問をした。
「私みたいなおばあちゃんと一緒にいても楽しくないでしょ?」
コーヒーを飲んでいた彼方は道代の問いにむせ返る。
「な、何ですか、急に?」
「だって、私みたいなおばあちゃんといると、あなたまで変な目で見られるでしょ?」
そこで道代は入学式から道代に出会うまでの大学での話を吐露した。それを聞き、彼方はうなずく。
「まあ、そういうのはあると思いますよ。やっぱり高齢者で大学に通うって変わってますから」
「そうよね……」
「だけど、そうじゃない人もいますから」
「え?」
「道代さんは若者と高齢者って分け方をしてますけど、若者の中にも色んな考え方の人がいますし、高齢者だって、若者を頭ごなしに否定してくる人もいますから。だからこそ年齢関係なく、相手を思いやれる人っていうのはいますよ」
「そ、そうかしら……?」
自信なさげに顔を上げると、彼方と目が合った。
「道代さんは私と一緒にいて、嫌ですか?」
「いいえ、そんなことはまったくないわ」
「じゃあ、周りの目なんて気にしないでいいですよ。どうせ、みんな私たちのことなんてすぐに忘れますから」
彼方は笑いながら、コーヒーに口をつけた。
確かに、そう思った。みんな、すぐに忘れてしまう。彼らにとってここは通過点で、そこから先も長い人生が待っているのだ。
そんな彼らがイチイチ、大学時代にまともに話をしたこともないような老婆なんて覚えているわけがないのだ。
「……余計なこと気にしなくていいのよね」
「そうですよ」
道代は彼方に笑いかける。
「でも私は彼方さんのことは忘れないからね」
「私もですよ」
道代ははにかんだ顔で笑う。
「ねえ、彼方ちゃんは大学内で友達できた?」
「ええ、何人か、ですけど」
「その人たちと、会って、お話をしてみたいわ」
道代がそう提案すると、彼方はうれしそうに笑ってうなずいた。
限られた時間を楽しめるかどうかは自分次第。
そう考えると、視界が一気に開いたような気分になった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。