62歳と18歳の「友情」

食堂は昼過ぎだというのに大勢の学生が集まっていた。道代たちは席を探し、ちょうどあいていた窓際のテーブル席を確保する。

彼方もこの大学にまだなじみきっていないようだった。

「何か、みんなと話が合わないんですよ。彼氏がどうとか、あの教授に気に入られれば就職に有利とか。私、そういうことがしたくてこの大学に入ったわけじゃないんで」

「桜木さんはどうしてこの大学に入ったの?」

「最初はドラマですね。ドラマで法律を扱うやつがあったので、それで法律って面白そうって思って、好きになりました」

「それじゃあ桜木さんは将来、弁護士とか?」

「んー、それはまだ分かりません。勉強してみて、ゆっくり4年間で考えていこうかなって思ってます」

そこから道代はドラマについて聞いたり、講義内容についていろいろと情報交換をする。夢中になって話していて、時間の経過をつい忘れていると、彼方が携帯の画面を見る。

「あ、私、そろそろ、アルバイトに行かないと」

「あら、そうなの。それじゃ私もお暇(いとま)しようかしら」

これでお別れなのは寂しいが、引き留めるのも申し訳なかった。

すると彼方が携帯を差し出してきた。

「連絡先、交換しましょうよ」

「え、いいの?」

「はい、たまにこうして一緒にコーヒー飲んだりしましょう」

彼方の笑顔に道代は感激した。

こうして道代は大学生活初めての友達を作ることに成功した。

友達が1人いるだけであれだけ、息苦しかったキャンパスが快適なものに感じられるから不思議だ。彼方とは同じ講義のときは隣の席に座ったり、大学内のカフェでお茶を飲んだりして過ごした。

彼方は18歳という年齢に似合わず、大人びた考え方をしていて、見ていたものや過ごしてきた時代が違うにもかかわらず、まるで旧友かのような落ち着きを感じられる。

しかしそれでも全てが順風満帆かと言われれば、違う。

彼方と一緒に大学内を歩いているとき、彼方の友人が話しかけてきた。彼方はその友人に道代を紹介すると、友人は物珍しそうな目を道代に向けてきた。

「どうしてわざわざ、大学に来ようと思ったのですか?」

道代はその質問に壁と棘を感じた。同じように進学をしているにも関わらず、どうしてそんなことを聞いてくるんだ。しかし無視するわけにもいかず、取りあえず答える。

「ちょっと、法律に興味があって」

道代の答えに友人は興味なさそうに相づちを打って、去って行った。

その瞬間、道代は夢から覚めたような気分になる。自分は大学生ではなく、キャンパスに紛れ込んでいる異物なのだと自覚する。