麻友は広いダイニングテーブルで朝食を食べる。
以前は夫の和志の身支度を手伝ったり、息子の悠輔を起こしたりと慌ただしい朝を送っていた。しかし今はもうその必要はなく、独り朝食を食べ、静かに仕事に行くだけ。
スーツに着替えた麻友は子供部屋をノックする。
「悠輔、お母さん、仕事に行ってくるから。それとご飯は昨日の残りが冷蔵庫にあるから。好きに食べてね」
返事はない。
息子の悠輔は17歳。高校には行ってない。いわゆる引きこもりだ。
日課であるドアとの会話を終えて、麻友は仏壇に手を合わせた。そこには笑顔の和志の写真が飾られている。
和志は1年前、交通事故で他界した。それ以来、幸せだった一家の歯車は急激に狂いだしたのだ。
「あなた、天国で私たちのこと見ていてね」
そう言って麻友は仕事に向かった。
悠輔は家から出ないだけで、部屋に引きこもっているというわけではない。だから夜ご飯は2人で食べることができている。
しかし悠輔は、食事中ずっと携帯ゲームをしているのだ。部屋ではテレビゲームをしている。とにかく悠輔は一日中ゲームだけをしていた。
昔もゲームは好きではあったが、ここまでではなかった。
時間を忘れてゲームをするようになったのは和志が死んでからだ。和志もゲームが好きで、2人でよくやっていた。そのときの2人は親子とというよりは親友に見えた。
そして和志が亡くなってから、悠輔はまるで和志との思い出に浸るようにゲームに没頭するようになる。やがて学校にも行かなくなり、不登校になった。
麻友も悠輔の気持ちが痛いほどに分かっているからこそ、むげにゲームを取り上げることができなかった。
しかしここまでのめり込んでいるのを見ると心配になる。