不登校の息子

麻友は悠輔が学校に行かなくなったとき、ほんの少しだけ安堵していたところもあった。悠輔の雰囲気から高校になじめてないと察していたし、和志を亡くしたばかりだったので、家に誰かがいてくれるということにも安心感を覚えていた。

それが間違いだったと、今は反省している。

不登校や引きこもりが悪いと思ってるわけではない。この状態を当たり前だと思っていることが気がかりなのだ。

いつまでも麻友が面倒を見られるわけではない。必ずいつの日か、社会に出ないといけない日が来る。

しかしそのことを伝えようとしても、麻友にも何という言葉が適当なのか分からないのだ。

「悠輔、食事中はゲームを止めなさい」

「……ああ」

悠輔は嫌そうに返事をすると、無表情でご飯を食べる。おいしいも何も言わない。

「悠輔、学校行かなくてもいいけど、勉強くらいはしないとダメよ。ゲームばっかりしてても将来役に立たないんだから」

「……ああ」

悠輔の淡泊な返事にいら立つと同時に、麻友はこんなつまらない言葉しか出てこない自分自身を嫌悪する。

無味乾燥な食卓の沈黙を埋めるように、チャイムが鳴った。

すると、悠輔は急いで部屋に逃げるように帰っていく。おそらく誰が来たのか分かったのだろう。

麻友がゆっくりとドアを開けると、そこには同じ高校に通っていた博樹の姿があった。中学も同じで家が近いこともあり、こうしてプリントなどをいつも届けてくれてる。

「すいません、夜分遅くに」

「いいのよ。いつもごめんね。悠輔に渡しておくから」

「あ、は、はい…」

それだけ言い残して博樹は去って行った。

向き合うことから逃げてはいけないとは思っていた。このまま高校に行かせないという選択肢はない。

しかし悠輔が高校になじめていないのは何となく気付いている。

だからこそ、今の悠輔になんと言ってあげればいいのか分からず、立ち往生し続けている。

そんな生活がしばらく続いた。