新NISAは中間層と低所得層の間の不公平につながらないか?

最後の論点ですが、これはちょっと“あら探し”感が否めないですね(苦笑)。とはいえ、投資に回せる余裕のない低所得層は新NISAを利用できないわけですから、利用できる人との間には不公平感がある、たしかにそうかもしれません。でも、この点については、旧NISAと新NISAを比較すると、違う景色が見えてくると思います。

例えば、旧NISAのつみたてNISAが今でも続いていたら、と考えてみましょうか。つみたてNISAは非課税保有期間が20年間ですが、新たな投資ができるのは2042年まで、でしたよね。

例えば、2023年からつみたてNISAを始めた人は、年間投資枠40万円を2042年まで20年分利用できますので、非課税で投資できる総枠は800万円(=40万円×20)になります。一方、10年後の2033年からつみたてNISAを始めた人は、2042年まで10年分しか利用できないので、非課税で投資できる総枠は400万円(=40万円×10)にしかなりません。

実は、早く始めた人ほど、非課税で投資できる総枠が多くなる、これが旧NISAだったのです。逆に言えば、投資に回せる余裕のない低所得層にとっては、今、NISAを利用できないことは非課税で投資できる総枠が減ってしまうという意味で、NISAを利用できる人と比較すると、取り返しのつかない差が生まれていたと言えるでしょう。こんなふうに考えると、旧NISAは中間層と低所得層の間の不公平につながる、そういう制度だったのかもしれません。

これが新NISAになって、どのように変わったのか。低所得層にとって一番意義深いと思うのは、NISA制度自体が恒久化されたことだと思います。つまり、新NISAの利用を開始するタイミングはいつでもいい、とても自由な制度だということ。今、投資に回せるお金のない低所得層も、将来懐に余裕ができた暁には、新NISAを始められるのです。

そしてもう1つ、注目に値するのが「非課税保有限度額」という新しいルール、1,800万円という非課税で保有できる上限金額が定められたことだと思います。つまり、新NISAの利用を今、開始しても、例えば10年後にはじめても、非課税の投資機会という意味では同じ、とても平等な制度だということ。今、投資に回せるお金のない低所得層も、将来、懐に余裕ができた後でも、新NISAで同じだけ非課税投資できる機会があるのです。

こんなふうに旧NISAと比べることで、新NISAがより自由で、かつ、より平等な制度であるとご理解いただければ、今、利用できるか否かという観点だけで、新NISAが中間層と低所得層の間の不公平につながるとは言えない、そんなふうに思います。また、先ほど、「非課税保有限度額」が富裕層優遇批判を回避するためだけに導入されたわけではないと申し上げたのは、この新しいルールが、新NISAの使い勝手の良さの中でも特に、非課税投資の機会均等を担保しているものだと思うからです。

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昨年末の新NISAの取材では、以上のような内容をお話しさせていただきました。そして、新しい年になり、好調な株式相場が続く中で、ネットでも新聞でも雑誌でも、毎日のように新NISA関連の記事や特集を目にします。もしかしたら、まだ新NISAの始めていない人の中には、「私は乗り遅れているのでは……」と焦っている方もいるかもしれませんね。

でも、安心してください。新NISAという制度自体は、今、始めないからと言って、あなたを仲間外れにはしません。つまり、非課税で投資する機会は減らないのです。

なぜなら、いずれ懐に余裕ができた時に始めても、非課税で投資できる機会はちゃんと担保されているわけですから。「新NISAはとても使い勝手の良い制度、だからこそ、人それぞれの活用法がある」そんなふうに考えて、少しでも心持ちが軽くなった方がいらっしゃれば幸いです。