父からの依頼

「京子」

封筒を持ち立ち上がった時、居間から声がした。

勝だ。

引き戸を開ける。勝は、読書灯だけがついている天井の低い居間で寝椅子に横になり、パジャマを着ておかゆの入ったボウルを持っている。

「起きたの?」

「うん」父は声も顔色も倒れる前と変わらない。ただ異様に静かでよく眠る。

「なに」

「母さんの友達から手紙が来てな。同窓会の誘いらしい」

勝は読書灯の下から1枚のはがきを出した。

「そう」嫌な予感がした。

はがきを手渡されたとき、京子は思わぬ異臭に顔を背けた。勝は抗がん剤の副作用で口の中がただれ、ひどい口臭がした。

「母さん、行けないだろ。適当に断りの返事書いてくれ」

ああ、と思った。勝と正子はこうやってずっと隠してきたのだろう。京子にがんのことを隠していたように。

勝の手が震え、ボウルからおかゆが垂れている。

「どうした」勝が言った。

「いいよ...... 書いとくわ」京子ははがきを見た。感じたことのない疲れが襲ってきた。

同窓会の誘いは、流れるような美しい筆文字で書かれていた。

その翌日、京子は池袋まで筆と墨を買いに行き「彼ら」と出会う。

 

●突然訪れた介護生活に疲れていた京子が出会った「彼ら」とは? 後編「会社をやめて高額献金… 両親介護中の50代女性がハマった団体の『正体』」にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。