居住用、投資用、相続・節税用とさまざまな用途で取引される不動産。しかし、売り手と買い手の情報に「非対称性」があることからも、不動産に関するトラブルが後を絶ちません。この連載では不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けしていきます。今回は、前回に引き続き、マンション投資でのトラブル例をご紹介します。

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前回の記事(「家賃保証」の甘言に注意…売るに売れない「サブリース契約」の恐ろしい盲点)では、ワンルームマンション投資に潜むリスクについてご説明をしました。投資の失敗も怖いのですが、実は「不動産投資で失敗したな」と思っている方に非常に気をつけていただきたいことがあります。それは、心ない不動産業者による「二次被害」です。

ご相談例で印象に残っている二つの事例をご紹介しましょう。

1人目のAさんは、20代後半の男性で年収500~600万の、ごくごく普通のサラリーマン。Aさんはその若さにして、ワンルームマンションを3室も購入していました。しかし、その投資がうまくいっていませんでした。

購入予定の「値上がりするはずの土地」。実態は!?

「自分でもなんとなく失敗したことに気づいています」というAさん。損切りでも構わないという覚悟で、所有物件を売却整理したいと、当社にご相談に来られました。

ところが、そのご相談の直後です。ある不動産業者から「マンション3室をすべて買い取りましょう」と持ち掛けられます。ただし、条件があるといいます。その条件とは「長野県の那須塩原にある450万円の土地を買ってくれたら、あなたのマンションを買い取ってもいい」というものでした。業者の話では、450万円の土地が、2年後には1000万円で売れるというのです。

「不動産業者が整地して宅地として売り出します」「1000万円で売れることが決まっている物件なんですよ」「今なら整地前だから破格の値段です」「450万円で買って1000万円で売ったら、550万円のもうけが出ますよね」「その550万円でワンルームマンションのマイナスを埋めましょう」。不動産業者の甘言に惑わされ、Aさんはこの話に飛びついてしまいました。

これは実は「原野商法」と言って、バブル時代に非常に流行った手口なのです。将来上がる見込みのない原野や山林を「この土地を購入しておくと地価が上がってもうかりますよ」と買わせる手法ですね。この手法を、不動産投資で失敗した人に持ち込んでくる業者がいるのです。

土地を一度も見ずに、契約書に判を押してしまったAさん。しかし、さすがに不安になり、当社に「大丈夫でしょうか?」と問い合わせて来られました。私もGoogleのストリートビューで現地を確認しましたが、何もない荒れ地が広がっている場所でした。もちろん、こんな土地が宅地として売れるわけがありません。明らかに原野商法でした。

「これはマズいです。1000万円で買う人なんていないですよ」とAさんに言いました。真っ青になったAさん。急いでクーリングオフの手続きをしてもらい、なんとか解約できました。

「なぜ、そんなものに判を押してしまうのか?」と不思議に感じる方が多いのではないかと思います。ただ、追い詰められていると、「差額の550万円でワンルームマンションのマイナスが埋められる」という所に意識がいって、そんな話も信じてしまうのです。また、業者もその場で判を押すように迫ってきますので要注意です。うまい話はないのですから、怪しいと思った時は、しかるべき場所にぜひ相談に行ってほしいと思います。