暗号資産を悪用した詐欺事件
そして、暗号資産が注目を集めるのと同時に、暗号資産の特性を悪用した詐欺事件も多発しています。
この手のケースでよくあるのが、暗号資産を利用した架空の運用話を持ち掛けるような事案です。警察庁の「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」でも、以下のような事例が取り上げられていました。
元会社役員の男(56)らは、暗号資産取引に係る運用事業やFX投資運用を行う個人ファンドへの投資名目で金銭をだまし取ろうと考え、平成30年1月頃から同年8月頃までの間、受け取った金銭を同事業への投資金に充てるつもりがなく、配当金を交付できる見込みもないにもかかわらず、「上場前の暗号資産がある。上場3ヶ月後に約10倍になる。」「FX投資で大きな利益を上げているトレーダーがおり、お金を預ければ、毎月10パーセントの配当がもらえる。」などとうそを言って、30都道府県の約1,000人から約20億円をだまし取るなどした。令和4年10月までに、同男ら5人を金融商品取引法違反(無登録営業)及び詐欺罪で検挙した(兵庫)。
出所:警察庁「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」
上記は兵庫県における詐欺事件でしたが、似たような話はここ数年、全国的に事件化しています。たとえば2019年4月から2020年11月にかけて約650億円の資金を集めた「ジュビリーエース」事件もそのひとつです。
ジュビリーエース事件の巧妙な手口
この事件では、逮捕された男女7人が日本各地でセミナーを開催しており、海外にある「ジュビリーグループ」が運営する投資ファンドに出資すれば、出資金の3倍まで配当金を保証するという触れ込みだったようです。
また、その運用は、取引所間で瞬間的に生じる、暗号資産の価格差を用いた裁定取引であり、出資金は全額ビットコインで払い込まされていたとのこと。
いくら裁定取引を用いると言っても、値動きの激しい暗号資産の売買で、保証付きの配当金を安定的に払い続けること自体、不可能です。ですが、そこに「AI(人工知能)を駆使して裁定取引を行う」といったスパイスを効かせると、人は信用してしまうものなのでしょう。
これは他の金融詐欺でも往々にして見られますが、AIのような流行の言葉をセールストークに盛り込むことによって、相手の興味を引く手口です。
また、ジュビリーエース事件では、マルチ商法の手口も見られました。かつてマルチ商法と言えば、健康食品や化粧品、寝具、浄水器といった現物を商材とするケースが大半でしたが、最近では投資勧誘に、マルチ商法の手口が用いられるケースが増えています。
現物は在庫を抱えるリスクがありますが、金融商品はそもそもバーチャルなものなので、在庫リスクがないのです。その点では、これからのマルチ商法は、投資勧誘に中心が移っていくものと考えられます。