激動の時代を生き抜いた「氷川丸」

日本郵船はさまざまな船舶を保有しますが、「氷川丸」ほど波乱万丈の歴史を持つ船はないでしょう。氷川丸は1930年に横浜船渠(現・三菱重工業)によって造られ、シアトル航路に配船されます。日本を代表する貨客船として活躍し、観光で訪れたチャーリー・チャップリンや、英国王ジョージ6世の戴冠式に出席した秩父宮・同妃など、多くの著名人が乗船しました。

戦時中は国に徴用され、引揚船や病院船として用いられます。任務中には3度も機雷に接触しますが、頑丈に造られていた氷川丸はなんとか沈没を避けることができました。また氷川丸は、外交官だった杉原千畝(すぎはら・ちうね)が脱出させたユダヤ人を運んだことでも知られます。

戦後もしばらくは外国に取り残された兵士や一般邦人の引き揚げ任務にあたり、氷川丸が再びシアトル航路に復帰できたのは1951年のことでした。しかし老朽化や航空物流への移行などから、1960年に引退します。

氷川丸は1961年に日本郵船と横浜市が出資した氷川丸観光(後に横浜展望塔との合併で氷川丸マリンタワーとなる)へ譲渡され、横浜市の山下公園へ係留される観光船となりました。2016年8月には、海上に保存される船舶として初めて国の重要文化財に指定されています。

氷川丸は2007年に日本郵船が買い戻し、現在も一般公開されています。当時の雰囲気に触れたい人は、一度訪れてみてはいかがでしょうか。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)