日本はスタグフレーションに入っている

結果はどうでしょう。量的緩和策にシフトしたことで、確かにインフレ期待は生じ、株価が上がって、円安が進みました。ただ、実体経済にその効果は及んでいません。当初から想定されていた通りなのです。

一部では失業率が低く推移したので効果があったとの主張がありますが、アベノミクスの開始時点で、すでに失業率はかなり下がっていました。一連の政策はそもそも失業率低下を目指したものではありませんから、賃金が上がり、経済が良くならないことには目的を達成したとはいえません。

それどころか、現在は賃金が上がらないのに物価が上がっている状況を迎えています。日本経済は既に不景気の下のインフレ、すなわちスタグフレーションに入っていると、私は見ています。

量的緩和策自体を否定するものではありませんが、これで経済が完全復活するということは、そもそもあり得なかったのです。効果が出ていないのは明らかだったのですから、量的緩和を始めて5、6年のところで撤退を模索すべきだったのではないかと私は考えます。にもかかわらず10年間、突っ走ってしまった。これは失策と言ってもいいのではないでしょうか。

現在は政府が発行する国債の半分以上を日銀が抱えていて、市場に流通する国債が減り、取引が成立しないという異常事態になっています。

この異常事態のなかで量的緩和策を続ければ、いずれ円そのものの価値が棄損され、円が売られて過度の円安になり、インフレに手がつけられなくなります。量的緩和策をこの先も続けるという選択肢は理論上あり得ません。

新総裁の下、日銀がいかにうまく緩和策から脱却するか。それが今後の日本経済にとって大きな鍵となっています。