パネリスト

キャプラ・インベスト・マネジメント 共同創業パートナー 浅井 将雄氏

ゴールドマン・サックス証券 経済調査シニアアドバイザー 大谷 聡氏

三井住友銀行 副頭取執行役員 小池 正道氏

内閣府 政策統括官(経済財政分析担当) 林 伴子氏

東京大学大学院経済学研究科教授 ナウキャスト創業者 渡辺 努氏

追加利上げのタイミング コンセンサスの7月、12月は「妥当」

――2025年の金融政策の先行きはどのようにお考えでしょうか。また金融政策に影響をもたらすものとして注視すべきポイントについてもお聞かせください。

浅井 日銀金融政策を巡る市場のコンセンサスは、向こう1年間で2回、25bpずつの利上げです。1月に利上げが行われたばかりですので、この見通しが実現するのであれば、次回の利上げは半年後の7月、続いて年末の12月もしくは翌年1月に行われると予想されます。日銀の物価見通しやGDP見通しを考慮すると、7月と12月前後に2回の利上げが行われるという予想は妥当であり、実現する可能性が高いと考えています。

ただし、今後の金融政策を占う上ではさまざまな要因を注視していく必要があります。 日銀の金融政策は伝統的に「金利」と「量」の両面から考察されてきました。「量」を象徴するバランスシートは現在、非常に大きな規模となっています。日銀は3カ月ごとに4000億円の国債買い入れを減額するオペレーションを行っていますが、その規模や方向性は今後の金融政策に大きな影響を与えます。 特に今春、1年半後のバランスシートのあり方についての議論が行われる予定であり、これが大きな焦点となるでしょう。日銀が適正なバランスシート規模をどのように判断し、国債購入をどの程度減額していくのか。3~4月の議論、そして恐らく7月になされるであろう政策決定に注目する必要があります。

もう一つの注目すべき点は、景気の下振れリスクです。7月には参議院選挙が予定されており、選挙結果が金融政策のタイミングに影響を与える可能性があります。参院選後まで利上げが延期されることも考慮する必要があるでしょう。

大谷 金融政策の前提となる物価リスクについて考察します。

私は現在、日本が長きにわたるデフレから脱却し、マイルドインフレへの移行期にあると見ています。そしてこの捉え方は日銀も同様のようです。日銀は従来、「長期にわたり賃金・物価が上がりにくいことを前提とした慣行や考え方が社会に定着」しているため、物価が下振れるリスクがあると指摘していました。しかし1月の展望レポートではこの表現が削除されており、日銀もレジームシフトを認識していると考えられます。

こうした状況下で、日銀が金融政策正常化を進める可能性は高いと予想しています。緩やかな基調的物価上昇を前提とすれば、年2回程度の利上げが見込まれ、次回の利上げは7月になると考えています。

7月の利上げを予想する理由は、基調的物価上昇を確認するさまざまな材料がそろう時期だからです。具体的には、4月の価格改定時期における賃金からサービス価格への転嫁に関するCPIデータの蓄積、各種ミクロ情報、そして春闘の結果が中小企業に波及する状況などを確認できますので、7月が利上げのベストタイミングであると考えられます。

ただし、次回の利上げ時期については、流動的な要素も考慮する必要があります。円安が急速かつ大幅に進む場合には利上げが前倒しされる可能性がある一方、7月の決定会合前に行われる参議院選挙の結果次第では、政治情勢が不安定化し、利上げが後ずれするリスクもあります。したがって、為替レートの動きや、為替に影響を与える米中貿易摩擦を含む関税政策の方向性、そして国内政治情勢にも注意を払う必要があるでしょう。

小池 インフレ率が既に日銀の目標値(2%)に達している点が重要です。仮に日本の人材流動化が進み、生産性や潜在成長率が上昇すれば、自然利子率も上昇し得ます。その場合、中立金利は2%以上となる可能性があり、現在0.5%の政策金利も少なくとも1%以上に引き上げる必要があるでしょう。

しかしインフレだからといって急激な利上げは適切ではありません。日本には依然としてデフレマインドが残存しているのが実情です。急激な利上げは経済にショックを与える可能性がありますので、「慎重かつ丁寧」に利上げを進める必要があります。

とはいえ、「慎重かつ丁寧」に利上げを進めるということは、必ずしも利上げペースを「ゆっくり」行うことを意味するわけではありません。すなわち1回利上げを行うごとに、その影響を点検しながら、着実に利上げを進めていくべきということです。市場関係者の間では、年2回の利上げが妥当との見方が多いですし、私も現状ではこの見方が適切だと考えています。

主要なリスクとしては、トランプ政権の政策動向が挙げられるでしょう。トランプ大統領は、中間選挙に向けてアメリカ経済の強化に注力すると予想され、各国との通商交渉において他国との対立を深める事態が懸念されます。特に、各国でリーダーシップの不安定化が見られる中、トランプ大統領が期待するようなディール(取引)が成立しない場合、その苛立ちから予期せぬ行動に出る可能性も否定できません。

 内閣府の経済財政部局の一員の立場から、財政政策や金融政策を含むあらゆるマクロ経済政策を考える上で不可欠な要素を3つ提示させていただきます。

1つ目は、日本の経済構造が大きな転換期を迎えていることです。1990年代末から長期にわたるデフレ経済、いわゆる「トリプルゼロ(賃金、物価、金利の停滞)」の状態が続いてきましたが、ここ3年ほどで変化の兆しが見え始めています。賃金と物価が上昇に転じ、2023年の経済白書のタイトルにもあるようにまさに「動き始めた」のです。動き始めた賃金と物価を原動力として、市場メカニズムが活性化し、経済全体のダイナミズムが回復しつつあります。この変化のモメンタムを維持し、経済のダイナミズムを活かすことで、日本経済は新たな発展段階へと進むことができると考えています。

第2に、世界経済の構図が大きく変化していることが挙げられます。国際情勢を注意深く観察し、変化に対応していく必要があります。

最後に、多角的かつ幅広い情報を基に、適切な判断を行うことです。私は現在、月例経済報告の作成に携わっており、総理官邸で開催される関係閣僚会議において、総理大臣や日銀総裁、各閣僚、与党関係者に対し、内閣府チーフエコノミストとして経済情勢を説明しています。その際、50枚ほどのグラフを用いて説明を行っていますが、そのうち3~4枚はビッグデータやオルタナティブデータといった民間データに基づくものです。こうした幅広い民間データを活用することで、最新の経済動向を的確に把握し、説明することができます。幅広いデータに基づいた分析と判断は、マクロ経済政策運営において不可欠な前提条件です。

「金利引き上げ」が日銀総裁の使命?

渡辺 金融政策について、パネリストの皆さま異なる視点から2点コメントさせていただきます。

1つめは日銀総裁の発言や行動の視点です。過去の総裁の就任前・就任後比較すると、就任後に「金利を引き上げること」が使命であるかのように振る舞う傾向が見られます。黒田前総裁はもちろん、過去には福井総裁時代にも同様の傾向が観察されました。これは、過去の総裁から現職への申し送り事項、あるいは日銀内部の慣習によるものかもしれません。

いずれにせよ、総裁就任後、金利引き上げに強いこだわりを持つ傾向があるという点は注目すべき点です。したがって植田総裁も、市場関係者の予想よりも早期に、かつ大幅な金利引き上げを行う可能性があるでしょう。もっとも、これは半分冗談、半分本気の見方であることも付言しておきます。

第2に、中立金利に関する議論の視点です。日本の政策金利の最終的な到達点について、多くの市場関係者は中立金利であると考えているようですが、私はそうとは限らないと考えます。

なぜなら日銀が利上げする理由のひとつとして、「将来、必要に応じて金利を引き下げられる余地を残すため」であると考えられるためです。これは日銀が公式に表明した見解ではありませんが、昨年公表された「多角的レビュー」において、量的緩和政策の効果に限界があることが示唆されており、金融緩和を行う際には金利操作を優先したいという意向が示されています。将来、景気後退局面において金利の引き下げが必要になった際に、十分な政策余地を確保するために、利上げできるタイミングでなるべく利上げしておきたいという考え方が日銀内部にある可能性があります。

もしこの仮説が正しい場合、政策金利の最終的な到達点は中立金利ではなく、「将来想定される景気後退局面において、どの程度の金利引き下げが必要となるか」という観点から決定されることになります。そうなれば政策金利の水準は中立金利と異なる基準で決定されるため、結果として違った数値となる可能性があります。日銀がどの程度この点を考慮しているかは不明ですが、重要な論点であることは間違いありません。

以上の2つの視点は必ずしも確実な判断材料ではありませんが、今後の金融政策を検討する上で参考になり得ると考えています。