企業による自己都合退職強要が懸念点
雇用保険の見直しによって、成長産業への人材流入活性化が期待される半面、企業による自己都合退職の強要増加を懸念する声もある。
会社都合による解雇を行う場合、従業員に支払う退職金が割り増しされるといった制度を規定している企業は多い。そのような企業にとって会社都合での解雇は、自社都合の離職と比べて負担が大きくなってしまう。
また、新しい従業員の採用や従業員育成を目的とする雇用関連の助成金は、会社都合による解雇を不支給の要件としているものが多い。助成金の支給を受けている企業が解雇を行うと、助成金の返還が必要となることもあるだろう。
このような理由から、企業側から解雇する意向を示していても、従業員に対して「一身上の都合」として退職願の作成を進めるなど、企業が自己都合扱いの離職を促すケースは少なくないという。
前述の通り、現行の制度では自己都合の離職に給付制限期間が設けられている。そのため、解雇された際に「できるだけ早く失業給付を受けたい」と考える失業者の場合、企業から自己都合退職を押し付けられたとしても実際に切り替える人は多くないだろう。
しかし、雇用保険の見直しによって、自己都合離職に対する給付制限期間が短縮されるとなると状況は一変する。失業者が会社都合で解雇されたとしても、自己都合での離職に切り替える心理的ハードルが低下し、企業による自己都合離職の押し付けが横行するのでは、と懸念されている。
そもそも自己都合による給付制限期間の設定があるのは、意図的に就職と離職を繰り返して受給する行為を防ぐためだ。また、労働者が安易に転職を図ることを防止することも目的としている。制限期間を変更して抑止力がなくなった場合、労働市場にどのような影響を及ぼすかは計り知れないだろう。
今後の見直しにより制度がどのように変更されるかは、現状ではまだ不透明だ。本来の制度の意図と異なる使われ方が横行することがないような設計に期待したい。