失業給付の見直しは「構造的な賃上げ」が目的
岸田首相が冒頭の発言をした新しい資本主義実現会議は、2021年の第1回から数を重ね、2023年2月で14回目の開催となった。
同会議は「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした岸田政権の経済政策「新しい資本主義」実現を目的として開催されている。
岸田政権は、新しい資本主義における総合経済対策として、賃上げが継続的に拡大しつづけていく「構造的な賃上げ」を最優先で目指す意向だ。そのためには「賃上げ」「労働移動の円滑化」「人への投資」の3つの改革が必要だという。
今回の会議でも、岸田総理は「構造的な賃上げの実現には労働移動の円滑化が必要」と発言。自己都合離職の場合の失業給付の見直しは、その目的達成への施策と位置付けられている。
雇用保険の見直しは、円滑な労働移動にどのようにして貢献するのだろうか。
例えば、労働者がキャリアアップや転職を希望していても、就職したままでは時間が取れず実現に向けた活動をすることが困難な場合もあるだろう。しかし、転職活動やスキルアップのために離職する場合、通常、自己都合での離職となるため、一般受給資格者として受給開始まで2ヵ月以上待たなければならない。
スムーズに転職先が見つかれば問題ないが、そうでない場合、ある程度の貯蓄がない人には大きなリスクが伴う。今回の失業給付の見直しは、このリスクを軽減させる内容になると考えられる。
仮に、失業給付の見直しによって一般受給資格者の給付制限期間が撤廃や短縮されるのであれば、自己都合による離職であっても、素早く給付を受けられるようになる。そのためキャリアアップや転職を希望する人への後押しとなるだろう。
岸田政権の狙いは、IT・デジタルやグリーンなどの成長産業で働く人材の増加を促すことにある。また、従来の日本企業に見られた終身雇用と年功序列の文化に変化をもたらしたいという思惑もあるようだ。
今後は欧米社会で広く見られる、特定の職種への専門スキルや経験を活かして働く「ジョブ型雇用」を日本でも進めていくと表明している。ジョブ型雇用では、勤続年数にかかわらず実力や成果によって報酬がアップするため、専門分野における高い能力を持つ人材の賃上げが見込まれるだろう。その実現のためにも、労働移動の活性化は押さえておきたいポイントだ。
このような政権が掲げる展望を考えれば、雇用保険の見直しによって自己都合離職者の失業給付までの期間短縮が実施される可能性は高い。