60歳以降、働きながら老齢厚生年金を受給すること、そして収入額次第で年金のカット(支給停止)があることを「在職老齢年金(制度)」と呼びます。

年金の支給開始年齢は段階的に引き上げられていますが、生年月日によっては60歳台前半で老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)を受給することができます。

この「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる人も働いていると年金がカットされることがありますが、その支給停止の基準額が改正されることになり、今までより受給額が多くなる場合があります。

現行制度上は厳しい「28万円基準」で年金がカットされる

特別支給の老齢厚生年金を受けられる人が、働くことで引き続き厚生年金被保険者となると、給与や賞与の額によっては年金が支給停止となって、受給できなくなることがあります。「厚生年金に加入していること」が大前提ですので、厚生年金に加入していない人(例えば自営業者など)は、どれだけ収入が多くてもその対象とならず、年金は全額受け取れます。

厚生年金被保険者となった場合に、支給停止のための基準額があります。現行制度上、(1)年金の月額と(2)給与の月額(標準報酬月額)と(3)直近1年の賞与(標準賞与額)の12分の1を合計して28万円を超えた場合に、その超えた分の2分の1の年金がカットされる仕組みです。「28万円基準」で計算され、合計28万円以下であれば、年金はカットされない計算となります。

現行:60歳台前半の在職老齢年金制度(年金の支給停止月額の計算式)

年金の支給停止の前提条件:
・(1)年金の月額、(2)給与の月額(標準報酬月額)、(3)直近1年の賞与(標準賞与額)の1/12、の合計が28万円超
・(1)(2)(3)の合計が28万円を超える場合、下記のABCDのうちで該当するものの計算式を用いて支給停止月額を計算
・(1)(2)(3)の合計が28万円以下の場合は支給停止はなし(年金は全額支給)

計算式

A:(1)が28万円以下・(2)+(3)が47万円以下
年金の支給停止月額=((1)+(2)+(3)-28万円)×1/2

B:(1)が28万円超・(2)+(3)が47万円以下
年金の支給停止月額=((2)+(3))×1/2

C:(1)が28万円以下・(2)+(3)が47万円超
年金の支給停止月額=(47万円+(1)-28万円)×1/2+((2)+(3)-47万円)

D:(1)が28万円超・(2)+(3)が47万円超
年金の支給停止月額=(47万円×1/2)+((2)+(3)-47万円)


※ (1)を基本月額、(2)+(3)を総報酬月額相当額と言います。

現行のルールを理解するためにも、(1)特別支給の老齢厚生年金が月に11万円、(2)給与が41万円、(3)賞与はなしという例で実際に計算してみましょう。

この方の場合、(1)(2)(3)の合計が52万円ですので、基準額28万円を超え、支給停止の対象となります。そして、上記Aの計算式(11万円+41万円+0円-28万円)×1/2で計算することになり、停止額が12万円と計算されます。停止額12万円は年金額11万円をすでに超えていますので、この場合、全額支給停止となります。会社からの給与が年間492万円(41万円×12カ月)くらいとなる中、年金は1円も受け取れないことになります。