会社員の夫と離婚することになった妻――離婚というと、年金には「年金分割」という制度がありますが、その響きからか「離婚すると夫の年金の半分がもらえる」、そしてなかには「なので、離婚して1人になっても老後の暮らしも問題ない」と思っている人も多い模様です。

果たして、離婚時の年金分割を受けると本当に夫の年金から半分が妻へ渡るのでしょうか。

離婚時の年金分割には2種類あり!

年金分割とはおおまかにいうと、婚姻期間中に夫あるいは妻が会社等に勤め、厚生年金加入記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある場合、離婚後、両者の婚姻期間中の厚生年金加入記録を分割する制度です(そもそもの話にはなりますが、厚生年金は厚生年金加入記録によって、その支給額が決まります)。

自営業等で夫婦共に厚生年金に加入していなかった場合、対象となりません。

そして、その年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種があります。似ているようで違うルールもあり、多くの方が「まぎらわしい……」と混乱しがちなのですが、それぞれ解説していきます。

合意分割は合意により最大50%ずつで分割

合意分割は、その名のとおり離婚した元夫・元妻の“合意”によって年金記録が分割される制度です。

元夫・元妻の婚姻期間中の厚生年金加入記録を合算した上で、厚生年金加入記録が多いほうから少ないほうへと分割することになります。そして、その按分割合は50%が上限となります。

例えば、元夫・元妻の婚姻期間中の厚生年金加入記録を合算して、その割合が元夫は80%、元妻は20%となる場合で考えてみましょう。

●合意分割の基本的な仕組み
例:合意分割の対象となる期間の元夫と元妻の厚生年金加入記録を合計し、そのうち元夫が80%、元妻が20%の場合。

 

※ 元夫が第1号改定者(分割をする側)、元妻が第2号改定者(分割を受ける側)となります。

分割後の元妻の按分割合の範囲は「20%超~50%」までとなります。元夫(分割をする側:第1号改定者)・元妻(分割を受ける側:第2号改定者)それぞれが最大50%ずつになるまでの範囲で分割されることになります。最大で元夫は80%から50%へと30%減り、元妻は20%から50%へと30%増えることになります。分割を受ける側(この場合の元妻)が50%を超えることはなく、夫の記録の半分(この場合の80%の半分は40%)がそのまま妻に移るというわけでもありません。

合意分割となっている以上、元夫と元妻の合意が必要で、当事者間で合意が整わない場合は家庭裁判所の審判等でその按分割合を決めることもできます。

強制的に50%分割される、3号分割

一方、3号分割ですが、2008年4月以降の夫婦の一方に国民年金第3号被保険者期間※1があった場合、“合意なく”とも、強制的に厚生年金加入記録が50%分割される制度となります。

※1 第3号被保険者の詳細については、前回の第8回「“不公平”と非難される年金「第3号被保険者制度」―その裏で起きている“ある大変化”」をご覧ください。

例えば、夫が厚生年金被保険者、妻が第3号被保険者のケースで考えてみましょう。3号分割前の当該期間の厚生年金加入記録は元夫100%、元妻0%ですが、分割後の厚生年金記録は強制的に元夫50%、元妻50%となります。

ここで注意したいのは、あくまで2008年4月以降の期間に適用されるということ。つまり、2008年3月以前の期間は3号分割の対象にはなりません。2008年3月以前の分について分割をしたい場合は、合意分割で分けるほかありません。

●離婚時の年金分割の対象期間

※ 結婚前や離婚後は分割の対象外

合意分割や3号分割による分割後の記録で将来の年金が計算されることになります。

分割が行われるためには、合意分割、3号分割いずれの分割であれ、離婚等から2年以内(原則)に標準報酬改定請求をする必要があります。この点も意外な盲点で、離婚しただけでは分割はされず、手続きが必要なことにも注意が必要でしょう。