【厚生年金の被保険者】(約347万人)の場合:iDeCo活用で退職所得の控除部分を増やせる

60~64歳の厚生年金被保険者数は347万人で、全体の7.7%を占め、20~24歳の6.2%を上回っています。さらに短時間労働者に限ってみると、60~64歳が18%を占めています。60歳以降は、多様な働き方が選択されている、といえるでしょう。

会社員の場合、自営業と異なり退職時に何らかの退職金が発生する場合があります。そのため、DCの老齢一時金を受け取る際には、他の退職金(厚生年金基金、確定給付企業年金、退職手当などの給付)とのバランスが重要となります。

なお、DCの老齢一時金は、受け取る年と同年、または前年以前19年以内(たとえば2022年にDCの老齢一時金を受け取る場合は2003年から2022年までの間)に受け取った退職金があると、合算して計算する必要があります。

逆にDCの老齢一時金を60歳で受け取ってから、他の退職金を65歳に受け取ると、退職所得控除を有効活用できる場合があります。DC以外の退職金は、受取の前年以前4年間を合算対象としているためです。

ケース③
〈職種〉会社員(嘱託再雇用)
〈年齢〉60歳
〈勤続年数〉27年10カ月
〈退職所得控除〉800万円+(28-20)年×70万円=1,360万円
〈DC以外の退職金〉850万円受け取り済み
〈60歳までの加入者期間〉13年
〈企業型DCの個人別管理資産額〉750万円(企業型DCの運用指図者)

退職金の受給と同じ年にDCを老齢一時金で受け取ろうとすると、退職所得は下記のような計算となります。

〈退職所得〉{(850万円+750万円)-1,360万円}×1/2=120万円

仮にiDeCoに毎月5,000円、5年で30万円を拠出すると、5年間で退職所得控除の額を200万円増やすことができ、退職所得を減らすことができます。ただし、受取時までに企業型DCの資産をiDeCoに移換しておく必要があります。

ケース④
〈職種〉会社員(嘱託再雇用)
〈年齢〉60歳
〈勤続年数〉9年8カ月
〈DC以外の退職金〉600万円受け取り済み
〈60歳までの加入者期間〉17.6年
〈企業型DCの個人別管理資産額〉1,200万円

何度か転職したため、DC資産額が多く、加入者期間も勤続年数よりも長くなっています。この場合、60歳以降にiDeCoに加入して加入者期間を23年まで増やすと、退職所得控除は1,010万円となります。

すでに受給した退職金との調整は生じますが、iDeCoへの加入で加入者期間が20年を超えることが想定できるのであれば、一時金受給の際の税メリットが大きいといえるでしょう。

ケース⑤
〈職種〉会社員(嘱託再雇用)
〈年齢〉60歳
〈勤続年数〉32年10カ月
〈退職所得控除〉800万円+(33-20)年×70万円=1,710万円
〈DC以外の退職金〉確定給付企業年金(900万円)は繰り下げ受給を選択
〈60歳までの加入者期間〉13年
〈企業型DCの個人別管理資産額〉750万円

60歳時点で企業型DCを老齢一時金で受給し、確定給付企業年金は65歳まで繰り下げることができれば、退職所得控除を有効活用できます。

なお、企業型DCの老齢一時金を受給していても、iDeCoの加入者となることは可能です(他社の企業型DCの加入者にはなれません)。

また通算加入者等期間(60歳までの加入者期間)は13年あるので、60歳以降に加入したiDeCoも、5年待つ必要がなく、受給したいタイミングでの受給が可能です。

ケース⑥
〈職種〉公務員
〈年齢〉60歳
〈勤続年数〉36年4カ月
〈退職所得控除〉800万円+(37-20)年×70万円=1,990万円
〈DC以外の退職金〉2,000万円受け取り済み
〈iDeCo加入年齢〉55歳
〈60歳までの加入者期間〉5年
〈受給可能時期〉63歳

60歳時点で退職所得控除を使い切っているため、iDeCoを老齢一時金で受け取る場合は、課税所得があります。

ただし、公務員のiDeCoの上限は月1.2万円(年間14.4万円)に限定されており、5年間拠出しても元金72万円です。受給可能時期の63歳までの3年間、iDeCoに掛金拠出することで、120万円の退職所得控除の積み増しができるので、メリットが大きいといえます。