中央銀行デジタル通貨は歴史の必然

牧野 すでに、海外ではかなりCBDCの研究開発が進んでいますよね。

小野 各国で研究開発が進む中、最も実用化が早そうなのが中国人民銀行の『デジタル人民元』でしょう。中国政府は、以前からCBDCに積極的に取り組んでいて、先の冬季北京五輪でも選手村などで実証実験が行われました。

牧野 日銀もやっていますよね。

小野 日銀は、2016年に決済機構局に『FinTechセンター』という部署を設置し、CBDCに関するレポートを発表したり、欧州中銀との共同プロジェクトに参加したりしています。そして、2021年11月には『中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み』というレポートを発表し、新たな実証実験を開始することを明らかにしました。

その実証実験は、すでにスタートしています。通貨の歴史を振り返ってみると、いつの時代でも、そのときの最先端の技術で作られているんですね。貨幣は鋳造技術が背景にありますし、紙幣は印刷技術や製紙技術が凝縮されています。日本の紙幣のホログラムは、ニセ札の製造を防止するための印刷技術の結晶といえます。そうした過去を踏まえれば、通貨や貨幣をデジタル化することは、必然だと言えるのではないでしょうか。

その場合の条件は、当然通貨としての各条件を充足し、かつ、コンピューターシステム、特にサーバーシステムを含むセキュリティの確立や取引のトレーサビリティシステムの運用体制、並びに個人情報の取り扱いについての信認が要求されることとなると思います。

ポートフォリオの分散効果の効率化に必要な存在に

牧野 今後、暗号資産が新たなアセットクラスとして機関投資家の投資対象となり得るのかどうか、という点が気になるところです。

小野 少し前までビットコインは「デジタル・ゴールド」などと呼ばれていました。金は、金利が付かず配当もないので、アセットクラスとしてはビットコインと金が近いということを表現したと考えられます。つまり、ビットコインへの投資は、株や債券といった伝統的なアセットクラスを補完するオルタナティブ投資という位置づけです。

牧野 以前から、株や債券だけのポートフォリオでは、効率的な分散効果が得にくくなっている、ということが機関投資家共通の問題として浮上していました。ビットコインなど暗号資産への投資は、それを解決するためのひとつの手段というわけですね。

小野 しかも、ビットコインは金よりも株や債券に対する相関が低いことがわかってきています。したがって、今後は、ビットコインを始めとする暗号資産への投資が増えるとみる方が自然でしょう。

牧野 暗号資産の〝実用性〟も注目されていますよね。ビットコインに次ぐ取引高となっている『XRP』は、国際送金のコストを劇的に引き下げる機能を持っています。そうした側面が評価されることで、暗号資産に対する見方が変わってくる可能性があります。

ステーブル化でビットコインはどうなる?

小野 暗号資産にとって、将来的に大きなテーマとなるのは、法定通貨へのステーブル化でしょう。CBDCが実用化され、実際に流通するようになると、ビットコインを米ドルなどにステーブル化させるという議論が起きてくると予想されます。前段でお話ししたステーブル化が、ビットコインなどのメジャーな暗号資産において、どの段階でどういう手法で行われるかは市場全体に非常に大きな影響を及ぼすはずです。

牧野 ステーブル化が行われれば、暗号資産が通貨として流通することになりますね。中南米に位置するエルサルバドルは、世界に先駆けてビットコインを自国の法定通貨としましたが、現状、なかなか安定せず混乱が続いているようです。もし米ドルとステーブル化するようなことがあれば、自国通貨を持っていない国が追随するかもしれません。

小野 同時に、これまで捕捉されていなかったビットコインを炙り出すことができます。現在世界でどのくらい流通していて、誰が大量に保有しているのかが明らかになるでしょう。

暗号資産の特徴は発行元と発行高が明確でないことであり、確認の方法がないことです。極端かもしれませんが、いずれビットコインをはじめとする暗号資産はステーブル化し、その形態に変化が生じてくるのではないかと、私は常々考えています。

牧野 ステーブル化されてしまうと、ボラティリティが抑制され、通貨として使えるようになることはポジティブですが、投資対象としてはリスク資産としての魅力が減少する側面もあると思いますが。

小野 私もそう思います。おそらく、すでに暗号資産に投資している投資家は、ボラティリティが高い内に保有しておきたいという思惑があるのではないでしょうか。

コモディティとして暗号資産を捉え、暗号資産同士の交換やカスタマイズインデックスを活用した、ポートフォリオ組み入れ型の資産運用型投資は考えられると思います。

牧野 その意味でも、注目すべきアセットクラスとして市場での動向をフォローする必要がありますね。