暗号資産の定義と種類
小野 暗号資産の定義については、2017年に施行した改正資金決済法に記載がありますが、シンプルに言えば、「インターネット上でやり取りされる財産」ということです。「デジタル通貨」という言い方もできるでしょうが、私は「電子信号通貨」という表現を推しています。正確には、現段階では通貨ではなく電子信号資産という位置づけです。
牧野 現在、全世界で暗号資産はどのくらいの種類があるんですか?
小野 1万種類以上あると言われています。ただ、日常的に取引されているのはごく少数で、上位10コインの取引高が全体の95%以上を占めています。中でも、1位のビットコインが圧倒的で、全体の約7割です。
牧野 ひと口に暗号資産といっても、さまざまなタイプがありますよね。よくビットコインに対して、それ以外のコインを「アルトコイン」と呼びますが、それでは分類したことにはなりません。暗号資産のカテゴリーには、「ステーブルコイン」というタイプがありますが、こちらの方が重要ですよね。
小野 ステーブルコインとは、ボラティリティを抑制することを狙った暗号資産のことです。コインを発行・運営する会社が、米ドルなどの法定通貨をコインの担保にし、コインと法定通貨との交換に応じることで、コインの値動きを安定させるという仕組みです。代表的なステーブルコインである「USDT(テザー)」は、1米ドルで1USDTが発行されます。こうすると、理論的には、USDTの値動きはほぼ米ドルに連動することになり、決済用の通貨としての地位を獲得し、ユーザビリティの確保もできることにつながります。担保にするものは、法定通貨だったり他の暗号資産だったりと、バリエーションがあります。
牧野 ステーブル化は、今後暗号資産が投資対象として定着していくかどうかに大きな影響を与えるテーマのひとつだと考えられます。これについては、また後ほど、述べていきたいと思います。
全世界の取引高は約70兆円まで急拡大
牧野 次に暗号資産の市場規模について見ていきたいと思います。前述したように、ビットコインは2021年に最高値を更新するなど、取引高の伸びは著しいものがありますよね。
小野 国内の取引高は、2021年は年間約3兆6000億円でした。2020年が1兆1000億円だったので、1年間で3倍以上に膨らんだことになります。これは、国内の取引所が公式に発表しているデータなので、海外の取引所などを使っているユーザーの分は含まれていません。そして、当社でデータを取っている海外30か所の取引所を合計すると、2021年は約70兆円で、前年比で4倍以上に増えています。近年、これほど取引高が増加している金融資産は他にはないでしょう。
牧野 2021年10月には、ビットコイン(BTC)の先物価格に連動するビットコイン先物ETFが、米国のSEC(証券取引委員会)に承認され、ニューヨーク証券取引所で取引がスタートしました。これも取引高の増加には寄与しましたよね。ETFであれば、税制も従来のルールが適用されますし、暗号資産の取引所よりも流動性は高くなるので、機関投資家もかなり買いやすくなったと言えます。
ただ、このETFは、ビットコイン先物価格に連動するETFであり、ビットコイン時価とは異なり、先物の限月更新の際に「順ざや」の場合は、ロールコストが嵩むことになります。よって、この先物連動ETFについてもボラティリティは大きく、機関投資家がポートフォリオの一部として運用するにはハードルが高い。その観点から、単一の暗号資産だけではなく、複数の暗号資産を網羅してマーケット全体が把握できるようなインデックスに対する投資家の関心は高いと思われます。
小野 株式市場における日経平均株価やTOPIXのように、暗号資産マーケット全体の動向を表すベンチマークが必要ですよね。
インデックス算出の有用性
牧野 ただ、機関投資家のニーズに応えられるようなベンチマークとなりうるインデックスというのは、簡単にはできません。私の前職にあたる指数会社としての立場から言わせていただくと、各暗号資産の価格と流通量、時価総額といったデータを統計的に解析し、その結果を基にした加重平均ベースで、暗号資産をとりまとめたインデックスを算出しなければならないからです。しかも、データや解析手法の客観性や透明性、公平性などを担保することも求められます。
小野 弊社では、そうした高い要求水準を満たせるように、マーケットの動向や暗号資産を含むさまざまなデジタルマネーの分析・格付けが行えるソフトウェアの開発を続けてきました。そして、まず、暗号資産市場を代表する格付け上位10銘柄で構成したインデックスである「JDR.Index」を作成し、公表しました。さらに、弊社独自の計算方法をもとに、世界を代表する指数会社S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスにより算出されたインデックス「JDRI」の運用を、2021年10月よりスタートしています。
牧野 今年2月からは、ブルームバーグとロイター(現RIFINITIV)で、おもに金融機関向けの情報端末を使って、JDR.Indexの配信が始まりましたね。
小野 JDRIは弊社が主要暗号資産の動向を終値ベースで指数化したインデックスで、市場の動向を示す指標として配信しています。一方で、リアルタイムでマーケット状況を把握して取引を実行するためには、リアルタイムベースのインデックスが必要となります。そこで、JDR.Index は、世界の主要な30の取引所のデータを、24時間365日解析して、弊社独自にリアルタイム指数化しており、その指数値は3秒に1回更新されています。また、これらのインデックス算出方法についても、サイト上で公表をしています。そうした部分を評価していただいたと思っています。
牧野 機関投資家がアセットクラスの対象として、暗号資産に投資するためのツールが整ってきたということですね。
今年2月からブルームバーグ(上)とロイター(現RIFINITIV)(下)で配信が始まったJDR.Indexの端末表示画面