【Part2】
「暗号資産」が「デジタル通貨」へと飛躍する可能性

日本におけるデジタル通貨の活用状況

牧野 後段では、仮想通貨や暗号資産というカテゴリーからもう少し範囲を広げて、デジタル通貨全般を見ていきます。最近では、「中央銀行デジタル通貨(以下CBDC)」が話題になることも多く、かなり注目度が上がってきました。CBDCを含めたデジタル通貨の動向は、今後の暗号資産のマーケットにも大きな影響を及ぼすと想定されます。そこで、まずは改めてデジタル通貨の定義について押さえたいと思います。

小野 前段で申し上げた通り、デジタル通貨は、「インターネット上でやり取りされる通貨」と言うことができます。広い意味では、電子マネーやスマホにチャージができるポイントなども含まれます。ただし、ここが重要なのですが、広義のデジタル通貨の中で、CBDCや暗号資産に言及するときは、電子マネーとは区別しておくことが必要です。電子マネーは、あくまで国が発行する法定通貨の代わり、つまり代替物です。お金のように使うことは可能ですが、当然、お金ではありません。例えば、電子マネーを決済手段として使われた店舗は、受け取った電子マネーをお釣りにしたり、仕入れの代金として使ったりすることはできません。店舗側にしてみれば、クレジットカードと同じく、電子マネーの発行元から現金を振り込んでもらうことになります。

牧野 あと、電子マネーを使用するときは、あらかじめ現金を電子マネーに変換しておく必要がありますが、いったん電子マネーにすると、基本的に現金に戻すことはできません。一部、銀行口座に戻して出金できるタイプもありますが、その際は手数料がかかります。

小野 これに対して、デジタル通貨は、通貨そのものですから、お釣りとして使ったり、銀行口座に入金したり、他人に送金をすることができます。デジタル通貨を受け取った人は、それを通貨として使えるのです。私は、デジタル通貨というよりも「電子信号通貨」と呼んだ方がいいのではないか、その方が電子マネーと区別しやすいと思っています。

牧野 そうした電子マネーとは異なるデジタル通貨は、すでに国内でも発行されていますね。代表的なのは、みずほ銀行の『J-Coin』でしょうか。あと、三菱UFJ銀行も早くから『MUFG coin』の開発をしていて、試験段階にあることが報道されています。

「デジタル地域通貨」はブームの様相

小野 実は、地銀や信金といった地域金融機関では、実用化している例が多数あります。その先駆けの成功例としてよく紹介されるのは、岐阜県の飛騨信用組合が運営している『さるぼぼコイン』でしょう。他にも千葉県の木更津信用組合の『アクアコイン』や鹿児島銀行の『Payどん』など、現在では相当な数に上っています。こうした地域で発行されるデジタル通貨のことを、デジタル地域通貨などと呼んでいます。

牧野 デジタル地域通貨の場合、現金化することはできません。地域で流通するお金を増やすことが最大の目的といえます。経済を活性化させるための、地域振興の一環として捉えられるでしょう。また、ビットコインの基幹技術であるブロックチェーン(分散型台帳技術)を活用しているタイプも増えています。

デジタル通貨のインパクト

小野 金融機関にとっては、デジタル通貨を発行するメリットはまだあります。大幅なコストの削減につながるからです。例えば、銀行のATMの本体価格は1台300万円程度、設置するスペースの賃料やメンテナンス費、現金輸送などの人件費を含めた経費は、年間で700万円という試算もあります。銀行業界全体で年間2兆円に上るとみられるこれらのコストは、通貨や紙幣という現金を扱うことに起因しています。仮に、すべての現金をデジタル通貨に置き換えた場合は、こうしたコストも削減できます。おそらく、現在のネットバンキングよりも少し多い程度のコストで済むでしょう。

牧野 デジタル通貨になれば、銀行は紙の通帳も廃止できますし、国内の銀行や信用金庫の預金口座数は、合計で約9億と推定されているので、印紙税だけでも巨額です。デジタル通貨にして、エクセルのような形式で口座の履歴を保存できれば、このコストも不要になります。

小野 同じことが中央銀行にも当てはまります。中央銀行が現金を扱うためのコストは膨大で、よく言われるのが、硬貨の製造原価です。例えば、造幣局が作る1円玉1枚当たりの製造原価は、約3円と言われています。5円玉は約10円、10円玉は約13円とされています。10円玉などは、年間で2億枚近く発行されることもあり、しかも、その輸送にも人件費などがかかります。中央銀行がCBDCを発行する動機は十分にあります。