「綺麗ごとを言うな」と批判も。運用開始後の赤字など試練に

こうして本社建物のリノベーションと共に、初の投資信託となる「結い2101」を当局に届け出申請し、会社を設立してから1年3ヶ月が経過して、ようやく運用がスタートしました。

そして、ここからが本当の試練の始まりでした。何しろ鎌倉投信という社名自体が全く世間に知られていません。直接販売なので、販売会社の営業力に頼ることもできず、初期設定で集まったお客様の数は267名。設定額は3億円でした。

ここからしばらくは、新規参入した企業が必ず直面するとされ、失敗か成功か次の道が拓けるまでの「デスバレー」そのものでした。設定から1年が経過して集まった資金は5億円程度で、3年が経過してようやく10億円を超えたという状態だったのです。それこそ売上高は1000万円程度なのに、経費が1億円もかかるという状況がしばらく続きました。

まだSDGsやESGの考え方も浸透していない時代でしたから、「いい会社に投資します」といっても、「綺麗ごとを言うな」とか、「そんなことでリターンが上がるわけない」、「人の金を使って社会実験をするのか」といった批判も結構ありました。

それでも少しずつではありましたが、私たちの経営理念や投資哲学、運用方針等に賛同してくださる方が、ブログやさまざまなSNSで情報発信いただき、徐々にサポーターが増えていきました。メディアでも「ちょっと面白いコンセプトの投資信託がある」という評価をいただけるようになりました。でも、思うように残高が増えていきません。高い理想を掲げても、経営として成り立たなければどうしようもない。経営者として、このジレンマに悩まされました。

そんな時……。今でも忘れられないことなのですが、東日本大震災が日本を襲いました。本当に悲しい出来事ではありましたが、私にとって、また鎌倉投信にとっても、この悲しむべき出来事が転機になったのです。

取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)

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