投信業界のキーパーソンにロングインタビューする投信人物伝。シリーズ第2回は投資信託委託会社「鎌倉投信」の代表取締役社長である鎌田恭幸氏にスポットを当て、ファンドの本質に迫ります。自社の利益のみを追求せず”いい会社”に投資することで、投資家の経済的豊かさと社会の持続的発展の両立を目指す運用を徹底。悠久の時間を感じさせる鎌倉に築90年もの古民家を改築し本社オフィスを構えるなど、ほかに類をみない独自の経営方針が多くの投資家をひきつけます。鎌田氏には、これまでのキャリアを振り返りながら、鎌倉投信を立ち上げるきっかけやターニングポイント、未来を見据えた取り組みについて伺いました。

投資家の経済的豊かさ、社会の持続的発展の両立を追求

どの金融グループにも属さない、純粋な独立系投資信託委託会社である鎌倉投信を前職の同僚らと共に立ち上げたのは、今から13年前の2008年11月5日でした。覚えていらっしゃる方も多いとは思いますが、100年に1度といわれた金融市場の大混乱、「リーマンショック」の直後に当社は船出をしたのです。

それから今に至るまで、いろいろなことがありました。それをこれから4回にわたってお話ししていきますが、大勢の投資家である受益者の方々に支えていただいたおかげで、現在の受益者数は2万人を超え、運用資産も約500億円になりました。
もともと鎌倉投信は、運用資産の規模を最大化させることを目的にしていません。会社の経営理念、投資哲学と運用方針を持続させ、運用の質を高めていくことが大切であると考えています。大事なのは会社として収益を上げることではなく、鎌倉投信の事業を通じて、「投資家の経済的な豊かさと社会の持続的発展の両立を目指し、その実感と喜びを分かち合う」を実現することです。

古民家を改築した鎌倉のオフィスでインタビューに応じる、鎌倉投信代表取締役社長の鎌田恭幸氏

まず、私がなぜ金融業界に入ったのかということからお話ししていきましょう。
正直なところ、大いなる志を持って金融業界を目指したわけではありません。私は大学時代、テニス部に所属していたのですが、その先輩が日系の信託銀行に勤めていて、何となくOB面談を受けたのがきっかけです。

その頃、日本はバブル経済の真っただ中で、多くの学生が金融業界を目指していました。そのなかでも信託銀行は、都市銀行(今でいうメガバンク)や証券会社ほど仕事はハードではなく、とはいえ給料はまあまあ高かったので、声をかけてもらった信託銀行に入社することにしました。

配属先は本店の証券管理部というところでした。当時、「株式等保管振替制度」の実施前で、株式や転換社債などは全く電子化されていなかったので、すべて紙の本券が存在していました。証券管理部は、これら有価証券の本券を管理し、名義書き換えなどを行うセクションです。ここで1年半、バックオフィスの仕事を経験した後、運用部門に配属され、年金資金の運用に携わるようになりました。そこから私の運用者としてのキャリアがスタートしたのです。