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投信業界のキーパーソンにロングインタビューする投信人物伝。国内を代表する著名ファンド「ひふみ投信」を運用し、「レオス・キャピタルワークス」の代表取締役会長兼社長最高投資責任者(CIO)である藤野英人氏に、これまでのキャリアを伺いました。新卒で入った野村投資顧問を皮切りに、ジャーディン・フレミング投信投資顧問、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントといった名だたる資産運用会社を経験。若くして高いパフォーマンスを上げてきた実績から世間では「カリスマ」と称されるも、その扱いに葛藤します。いつしかファンドマネージャーでありながら経営者として起業し、理想の投資信託をかたちにするため新たな目標にチャレンジすることになります。

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「本当に良い投資信託」を日本に定着させるためゴールドマンで研鑽

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントへの入社を決める前、実は別のオファーもありました。

ひとつはジャーディン・フレミング投信投資顧問が出資するので、ベンチャーキャピタルをやらないかというお話。それともうひとつは、世界最大の電子機器販売会社であるテレダイン・テクノロジーズの創業者で、著名ベンチャーキャピタリストであるジョージ・コツメッスキー氏から、内弟子にならないかというオファーもいただいたのです。彼の研究室で、つきっきりでベンチャーキャピタリストとしての修行をさせてもらえるという、とてもありがたいお話でした。

本当に、どちらも魅力的なオファーだったのですが、私には以前から気がかりなことがありました。自分が投資信託の運用をしておきながら、こんなことを思うのも変な話ですが、「日本には良い投資信託がない」と常々、思っていたのです。

「本当に良い投資信託を日本に定着させる」とレオス・キャピタルワークスを創業した藤野英人氏

当時の投資信託は、証券会社が販売の中心でした。本当に投資家のためになる、良い運用をしたいと思っていても、証券会社の営業政策次第でいきなり多額の資金が入ってきたり、逆に解約が急増したりして運用がしにくかったのです。

本当に良い投資信託を日本に定着させるためには、証券会社にお願いして売ってもらうのではなく、証券会社の方から売らせて下さいと言われるような投資信託をつくらなければならない。そのためには、資金づくりも含めてもう少し準備期間が必要だし、自分自身ももう少し研鑽を積む必要がある。そう考えて、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントにお世話になることにしました。2000年のことです。