〈前回まで〉
独立系投資信託委託会社「鎌倉投信」の代表取締役社長、鎌田恭幸氏にこれまでのキャリアを振り返って頂きました。鎌田氏は大学のOB面談を機に日系の信託銀行に就職します。当初は大きな志を持って金融の道に進んだわけではなかったといい、各人が独自の相場観をもとに属人的な売買を繰り返す中での運用を続けていました。そんな中、長い付き合いがあり負けるはずのない大手年金基金のコンペで大負けしたのです。その理由は明確に語れる経営理念や運用哲学がなかったから。こうした経験から自らをより学びの環境へと追い込むため外資系運用会社に転職。そこでは人の判断を入れず、一貫したプロセス運用を行う「投資は科学である」という投資哲学を目の当たりし、鎌倉投信立ち上げの礎となっていったのです。

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金融の枠組みを通じて企業を応援する、という企業理念

鎌倉投信の創業メンバーは皆、外資系資産運用会社グループの元同僚です。私を含めて4人のメンバーで立ち上げました。仕事上の接点もあったので、ある程度性格や得意分野が分かっていたというのが元同僚を集めた一番の理由です。

その運用会社はとてもよい社風の会社ではありましたが、外資系なので定年まで働くという考え方を持っている人はいません。そこで私は、よく知っている人物のなかでも「こういう人と共に仕事ができたらよい」と自分で感じた人に、「何か一緒にできませんかねー?」などと話を持ち掛けてみました。こうして創業メンバーを集めていったのです。そこで皆といろいろな議論をしました。

そもそも何のために私たちは独立するのか。どういう会社を創ろうとしているのか。新しい運用会社を立ち上げるのであれば、何をどのような手段で誰に提供するのか。どのようなコンセプトの金融商品にするのか。個人向けなのか、それとも年金など機関投資家向けなのか。投資信託の販売方法を個人向けにするなら直販にするか、販売会社を使うのか……。

このように、新しく立ち上げる会社の企業理念を考え、その企業理念を達成するためのビジネスモデル、運用戦略などを練り上げたうえで、それらを設立趣意書に落とし込むという作業を、時には皆と合宿しながらおこないました。

前職を辞めた当初は、以前から社会貢献的なNPOなどにも興味があったので、漠然とそんな活動ができたらと考えていました。しかし、当時、42歳だった私が、それまでキャリアを積んできた金融とは別の世界で仕事をするのは現実的ではないという想いもあり、未来のために頑張っている人や企業があったら、金融の枠組みを通じて応援しようと考えたのが、私の中での鎌倉投信の始まりです。

また、今までで年金基金などの運用のプロである機関投資家を相手にビジネスをしていた私たちが、投資信託という個人向けの運用商品を提供しようと考えたのは、個人の想いや志のあるお金を広く集め、それを社会に活かしていきたいと考えたからです。もちろん年金資金の運用も最終受益者は個人ですが、一人一人の想いや志のあるお金を社会に活かそうとした時、そこにはいささか距離があるような気がしました。