10ヵ月の議論の後、リーマンショックの混乱の中で立ち上げ

鎌倉投信の基本的な骨格を定めるための議論には、10ヶ月という期間がかかりました。それは決して無駄な時間ではなかった、と思っています。鎌倉投信を設立したのは2008年10月。記憶に残っている方も多いと思いますが、リーマンショックで世界中の金融市場が大混乱に陥っていた時です。「よくそのタイミングで踏み切りましたね」と聞かれることもあるのですが、私たちはさほどぶれるようなことはありませんでした。それは、会社を立ち上げるに際して基本的な骨格をしっかりと固めていたからです。

私を含めて4人の創業メンバーは、前職で仕事を共にした仲間ですが、個々人の考え方がすべて一致するとは限りません。そこで大事にしたのは、各人の考え方の違いを乗り越えて、会社の経営理念やビジネスモデルを構築するだけの共通の価値観を持つことができるかどうか、ということでした。この点が一致しなければ、おそらく鎌倉投信は立ち上がらなかったと思いますし、経営的になかなか黒字化せず厳しかった時期を乗り越えられなかったかも知れません。その意味でも、10ヶ月かけて行った議論は、とても重要な時間だったのです。

本当にいろいろなことを議論しましたが、鎌倉投信を立ち上げる前、そして立ち上げた後も、投資信託の設定に向けてずっと議論し続けたのが、どういう会社に投資するかということでした。目指すのは社会の役に立つ、社会課題を解決するいい会社を応援することです。

投資の判断軸を決めるにあたって参考になったのが、当時、法政大学大学院で教鞭を執っておられた坂本光司先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」という本でした。当時、鎌倉投信の運用担当だった新井和宏さんが見つけてきてくれたのですが、この本を通じて、日本には社会や社員から愛されている会社がたくさんあることを知りました。本業を通じて、日本が抱えているさまざまな社会課題を解決し、世の中に価値を提供している会社に投資するという判断軸が固まりました。

もちろん株価や財務価値も大事ですが、この日本にとって、本当の意味で必要とされる存在意義のある会社に投資できたならば、業績が悪化したからとか、株価水準が割高になったからという理由で売却する必要はどこにもありません。あくまでも理想形ではありますが、100年、200年と運用を続ける投資信託で、いい会社を100年、200年、300年と応援し続けることにより、投資した会社が持続的に成長していけるための礎になりたいというのが、鎌倉投信の運用コンセプトです。