「生前贈与」が使いにくくなる前に何をするべき?
制度改正に向け、生活者が取れる対策は何かあるのだろうか。新たな制度が不明の今、鴛海氏によれば現行制度をフル活用していくことで、課税対象となる資産を減らしていく方法が現実的だという。
とくに、以下のような方法を適用終了前に活用するのは、多くの人に共通する対策だ。
・暦年課税制度の基礎控除範囲内の贈与
・結婚・子育て資金の一括贈与
・教育資金の一括贈与
・住宅取得資金の贈与
まず、暦年課税制度は少なくとも2021年度までは確実に施行される。年間110万円までの基礎控除は余すことなく活用したい。
また、結婚・子育て資金や教育資金の一括贈与制度も選択肢の一つ。
「結婚・子育て用の資金を一括贈与する場合、20歳以上50歳未満の子どもや孫に対して最大1000万円まで非課税です。さらに教育資金に関しては、30歳未満の子や孫に教育資金を一括贈与した際、受贈者1人あたり最大1500万円(習い事などは最大500万円)まで贈与税はかかりません。ただし、両制度はともに2023年3月までの時限措置なので、活用するならお早めに」
住宅取得資金を20歳以上の子や孫へ贈与する場合にも、1500万円を上限として非課税となる。こちらも住宅取得契約と住居取得資金の贈与が2021年12月末までに行われたものが対象なので、利用したい人は早急に手続きを進めたい。
なお、食費や住居費、治療費などの生活費や学費など、社会通念上適当だと認められる金額の範囲で贈与した場合は課税対象にならない。少額ではあるが、こちらも生前贈与による相続税対策の一つだ。
例えば、大学生活のため一人暮らしをしている子に対する月々の仕送りも課税対象外。しかし、高額な住宅の賃料を親が負担する場合や、生活費を明らかに超える多額の仕送りなどは贈与税がかかる場合もありえる。
相続税対策の要となっている暦年課税が廃止される可能性があるうえ、現行の結婚・教育資金などの非課税制度の適用期限が刻々と迫っているなど、贈与税制は大きな変化の局面にある。
「まずは2021年12月発表の税制改正大綱の内容に注視を。そのうえで、今使える制度を活用していくのが私たちが取れる対策です。もしどんな制度を利用できるか分からなければ専門家にアドバイスをもらうのも一つの手といえるでしょう」
税理士法人 おしうみ総合会計事務所代表
税理士・公認会計士
鴛海 量明(おしうみ・かずあき)氏
東京大学経済学部経営学科を卒業後、監査法人、大手税理士法人勤務を経て、独立開業。2010年に現事務所を設立。著書に『相続は、「感情のもつれ」を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版/共著)など。
取材・文/藤田 陽司(ペロンパワークス)