「高分配」追求の流れもNISA誕生以降は一変
その後、リーマン・ショックという未曾有の金融危機を経て、さらなる高分配・高利回りを追求する動きが強くなっていった。背景には、先進諸国の金利低下の影響がある。ハイ・イールド債券(信用格付けは低いが、利回りの高い債券)、ブラジル・レアルやトルコ・リラに代表される高金利通貨、そして海外リートと、ファンドが内包するリスクと引き換えに高水準の分配を実現するファンドが増え、やはり年金受給層を中心に人気を集めた。
ここでいう高分配とは、100~200円前後の分配金を支払うファンドを指す。例えば、「野村ドイチェ・高配当インフラ関連株投信(米ドルコース)毎月分配型」は250円という超高水準の分配金で投資家を惹きつけ、2014年11月には1.4兆円にまで残高を伸ばした。(ちなみに、同ファンドの足元の分配金は、当時の10分の1以下の20円である)
定期分配型そのものの存在を否定するつもりはないが、いま改めて振り返っても、当時の「高ければ高いほどよい」と言わんばかりの超高分配ブームは行き過ぎていたと感じる。後述する長期投資とは程遠い、「目先のリターン」に業界全体が熱狂していた、異様な時代であった。
2014年に開始したNISAに次いで、2018年にはつみたてNISA制度が始まり、いよいよ本格的に長期投資の重要性が叫ばれるようになった。2019年に物議を醸した「老後資金2000万円」問題、さらにはコロナ禍がライフプラン見直しのきっかけになった人も増えたとみられ、現役世代の資産形成に対する熱量は足元数年の間に急速に高まってきた。
こうした流れに加え、米国をはじめとする世界的な株高にも後押しされ、2019年ごろからは、株式を投資対象とする投資信託が投信業界の主役になっている。もちろん、全ての株式ファンドに継続的な資金流入があるわけではなく、利益確定とみられる資金流出も散見されるものの、前述の「ノムラ日本株戦略ファンド」以来、実に21年ぶりに「非・定期分配型」の「1兆円ファンド」が誕生したことの意味は大きい。なお、積立で支持を集めている、いわゆる低コスト株式インデックスファンドについても、現在のペースで資金流入が続けば、そう遠くないうちに1兆円の大台が見えてきそうだ。
しかしながら、「1兆円ファンド」の足元の残高を確認すると、ごく一部を除き、ピーク時と比べて大幅に縮小していることが分かる。マーケット環境の変化を考慮すれば仕方がない部分もあるが、今後はますます長期の実績が重視されるようになるだろう。
その上で、過去の反省から学ぶことは多い。日本でもようやく長期資産形成が浸透し始めた今、改めて投信業界の長期トレンドを振り返るタイミングだと感じている。