「選択の自由」を前面に出して売り込まれる、401(k)や健康保険プラン

そのため「You are free to choose from 〇〇.(〇〇の中からどれでも自由に選べます)」とか、「It’s your choice.(あなたの選択次第です)」といったフレーズはマーケティングの常套句です。401(k)※1などの確定拠出年金や健康保険プランの売り込みにも頻繁に使われます。

※1編集部注……401(k)とはアメリカの確定拠出型年金制度。雇用主が福利厚生の一部として提供するもので、加入は雇用主を通して行う。掛け金は従業員の給料から、また多くの場合、企業からも従業員の拠出額に応じて一定額拠出される(マッチング・プログラム)。

1980年代のアメリカでは、確定給付年金※2のある企業(団体)で働く人は全体の60%でしたが、今ではそれが17%にまで低下し、それとともに確定拠出年金への移行が進んでいます。企業にとってみれば、資金運用をして将来的に確定した給付金を支払う重責から解放され、年々決められたお金だけ拠出(確定拠出)しさえすれば役目は終わり、後の運用成績は個人の責任となるシステムは、ある意味、経営上都合のよいものでもあります。

※2編集部注……企業が拠出・運用・管理・給付までの責任を負い、雇用者への給付額があらかじめ約束されている企業年金制度。

これを「今までは会社がやっていたので選ぶ余地がなかったのが、これからは会社からもらったお金を、好きなだけ積立に回せ(上限はあります)、自分で選んだファンドで自由に運用していくことができる!」と売り込むわけです。

健康保険も同様です。日本の方には、アメリカの医療や健康保険制度が理解しがたいと思いますが(アメリカに住んでいても理解しがたいですが)、とにかく日本の健康保険や国民健康保険のように画一的ではなく、いろんな意味で多くのバリエーションがあります。

まず、行く医療機関によって、全く同じ医療措置を受けても値段が大きく違います。その差といったら恐ろしく、例えば全く同じ心臓のバイパス手術をしてもA病院では300万円、B病院では600万円ということはよくあります。またこの値段とそれぞれが加入している保険のプランに従い、負担がほとんどなかったり、40%負担だったり、100%負担だったりします。保険が提携している病院ネットワークだと負担は低いが、それ以外だと負担が高いということもあります。自己負担の軽い保険は月々の保険料が高く、自己負担の多い保険は月々の保険料が安く設定されているということもあります。

個人は、自分の健康状態と、自分のかかりたい病院と、月々支払う保険料と、病気になった時の負担率を総合的に考え合わせながら(実際のところ、ほとんど無理に近いことです……)、複数の選択肢の中からどの健康保険プランがよいかを選ぶわけです。

「保険プランはどれでも自由に選べます」「病気になったら、自分にあった病院を自由に選べます」「安い病院を選べば自己負担額も低くなります」という具合で、言ってみれば「選択攻め」です。確定給付年金から確定拠出年金への移行のごとく、企業や保険会社が昔、請け負っていた選択・運用の部分が個人に振り分けられています。