長期目線で、決断は素早く。オーナー企業に学んだ「哲学」

――その後獲得された数々の賞は、その「哲学」に基づいて運用してきた結果への評価なのでしょう。2019年8月には日興アセットマネジメントの「ミュータント」 のファンドマネジャーに就任され、その電撃移籍は世間をあっと言わせましたが、同ファンドは設定から20年の老舗アクティブファンド。これだけ歴史あるファンドを受け継ぐのは大変だったのでは?

私が就任してまずやったことは、「ミュータント・カンパニー」の再定義です。
このファンドは、将来爆発的な変化を遂げる企業、「ミュータント・カンパニー」を組み入れることになっていますが、この「ミュータント」の定義がやや曖昧でした。そこで、「爆発的な変化」から一歩踏み込んで「利益」に着目し、「利益」が成長したり、プラスの方向に変化したりする企業を「ミュータント・カンパニー」と再定義しました。これにより、ファンドの骨格がしっかりと再構築され、私自身、ブレずに運用することができるようになりました。

さらに、運用プロセスも変更し、ミュータント・カンパニーとなり得る企業を

① 独自要因による利益成長が期待できる企業(経営者のリーダーシップのもと、企業独自の要因により利益成長が期待できる企業)
② マクロ要因によって利益改善が期待できる企業(為替や金利の外部要因によって利益の改善が期待できる企業)

の2つに分けました。一般的に中小型グロースファンドというと①だけになりますが、②を組み合わせることで、ファクターの偏りを改善し、安定的なリターンの獲得を目指せるようになります。加えて、リスクコントロール策として、PERを割高にし過ぎない、株価モメンタムも高めない、という方針を取っています。
ただ、ファンドの骨格になっているのはやはり①で、ここはほとんどオーナー企業銘柄です。自分のこれまでの知見と経験を活かすことができますし、そこがあったからこそ、ミュータントのパフォーマンスも上がっていると感じます。

――今の北原さんの考える理想のファンドの形に変えられたのですね。北原さんがオーナー企業にこだわる理由とは何ですか?

オーナー企業の最大の特長は、経営者自身が大株主であるということです。誰よりも株を持っているので、当然株価を上げたい、下げたくない気持ちがあります。実際、経営者が、株価を上げるために、もっと会社を良くしよう、さらに利益を出すためにはどうしたらよいのかを必死に考え行動するというインセンティブが働きやすいように思います。
また、新規事業の立ち上げもそうですが、オーナー企業は特に事業の撤退の決断が早い。さらに、景気が良いときは敢えて冒険せず、景気が悪い時に思い切った投資をするなど、逆張りの発想で、10年、20年後の先を見据えて中長期的な投資を行えるのもオーナー企業ならではで、大きな利益成長が期待できると考えるのも理由のひとつです。

――銘柄選択の判断材料はオーナー様へのインタビューが大きなウエイトを占めていると思われますが、どのような点を重視して見極めていますか? 

経営者自身が高いビジョンをしっかり持っているか、そのビジョンを実現するための戦略があるのか、それをわれわれ投資家も含めて利害関係者に対してしっかり説明できるのか、を一番大事にしています。
ただ、個別銘柄にはあまりこだわりがなく、お客さまが5年、10年持っていて「良かった」と思えるファンドを作ることが私の最終目的です。「オーナー企業にこだわったファンド」というとどうしても個別銘柄にフォーカスされがちですが、できればそこから一歩引いて、ファンド全体を見ていただけたら幸いです。

どれだけお客さまのほうを向いて仕事をできるか

――全ては「お客さまのため」なのですね。話は変わりますが、ファンドマネジャーの仕事の面白さや、こういう人が向いている、といったポイントを教えて下さい。

ファンドマネジャーという仕事への適性は、責任感を持って、どれだけお客さまのほうを向いて仕事をできるか、そしてそれを面白いと思えるかどうかにあると思います。さらに、何かに困った時でも原理原則に従って動ける、原理原則を大切にして運用することも重要だと感じています。
また、性格もあるかもしれません。「なぜこんな銘柄を持っているの?」と言われると、不安というよりむしろうれしくなりますし、逆に「良い銘柄をたくさん持っていますね」と言われると不安になったりします(笑)。人とは違うことをしていても気にならない性格は、この職業と相性が良いと思います。

――北原さんはサッカーがお好きなんですよね。運用にも活かされているところはありますか?

尊敬する元日本代表監督ジーコの「献身・誠実・尊重」というジーコ・スピリットを、運用でも大切にしています。自分なりの捉え方ですが、「献身」はお客さまのためにやることが一番、「誠実」は自分のできる範囲のことをやり、できないことはできないとしっかり言うことが運用者として大事、そして「尊重」は他者のいいところは真似する、そういう姿勢を常に持ち続けなくてはいけない、ということです。いろいろな場でこの3つの言葉をお伝えしていますが、私がファンドマネジャーとして終わる時があるとしたら、その言葉が言えなくなった時だと思っています。

――最後に、投資家の皆さまにメッセージをお願いします。

5年、10年といった中長期のスパンで、お客さまが「持っていて良かった」と思えるファンドを目指しています。時流のテクノロジー系の銘柄はあまり組み入れていないので、おもしろいファンドではないかもしれませんが、原理原則に基づいて運用しているのが私の強みですし、それをお客さまにしっかりと還元していきたいと思っていますので、長い目で見守ってください。

■インタビューを終えて

質問に一つひとつ丁寧に、謙虚に答えながらも、「お客さまのために」という姿勢は一貫していて、「まっすぐな人」という印象でした。マーケットというフィールドでジーコ・スピリットを胸にご活躍される北原さんに、今後も注目です。