ファンドマネジャーとは投資家から集めたお金(ファンド)を運用する責任者で、いわばプロの投資家です。小説家の哲学がその小説で表現されているように、アクティブファンドは、それぞれのファンドマネジャーの投資哲学によって運用されています。では、ファンドマネジャーとはどんな人たちで、どんな想いで、どんな哲学で運用を行なっているのでしょうか? いま気になるファンドマネジャーにインタビューしてみました。シリーズ連載の第1回目は、「R&Iファンド大賞2020」の「投資信託/国内中小型株部門」で最優秀ファンド賞を受賞した、「企業価値成長小型株ファンド(愛称:眼力)」(アセットマネジメントOne)の関口智信ファンドマネジャーです。

この人に聞きました
関口智信
関口 智信 アセットマネジメントOne 運用本部株式運用グループファンドマネジャー

1998年、新和光投信(現アセットマネジメントOne)に入社。2001年よりアナリストとして活動したのち、2005年よりファンドマネジャーとして小型株をはじめとする国内株式アクティブ運用に従事する。「企業価値成長小型株ファンド(愛称:眼力)」他を担当。そのパフォーマンスには国内外で数々の受賞歴がある。

企業調査部での経験が転機に

――最初に、関口さんの簡単なご経歴を教えてください。

1998年に新和光投信(現アセットマネジメントOne)に入りました。最初は計理部に配属となり、その後、企業調査課で素材・化学の担当を経て、2005年に運用部へ。2006年からは小型株のファンドマネジャーとなりました。

――当時、就職先にいきなり運用会社を選ぶ方は少なかったのではないですか?

大学時代にバイトしていた時に、口下手で世渡りがヘタな自分は営業に向かないと思ったんです。それに、運用業界はこれから伸びる業界だと思ったし、実力本位な世界じゃないですか、それがいいなと。

――確かに結果が全て、ですよね。ところで、皆さんが興味あるところだと思うのですが、関口さんはもともとファンドマネジャーになりたかったのでしょうか?

そうでもなかったです。もともとクオンツ志望で、金融工学を活かした仕事は専門職だし、会社に入っても「匠の世界」で生きていけるかな? と考えていました。ただ、企業調査をやるうちに、市場は効率的ではなく、ランダムウォークでも全くない、それぞれの会社の動きがあって面白いな、と。こちらのほうが自分にとって惹かれる仕事だと思いました。

――理論よりは、企業調査のようないわば泥臭い仕事のほうが面白いと思われたのですね! 2005年の運用部配属から、「眼力」の誕生までを教えてください

2006年のライブドアショックの頃に先輩からの引き継ぎで小型株のファンドを任されました。そのファンドで、3年後にはリッパー・ファンド・アワードをいただきました。

――そこで小型株の魅力にハマった?

はい。ファンドごとに組み入れる銘柄が違いますし、パフォーマンスもバラツキがすごいですから、やはり小型株は面白い、と。ただ、担当の小型株ファンドは定期償還してしまいました。しばらく一般型、つまり大型株も含むファンドを運用していましたが、やっぱり小型株がやりたいと……。

私募からスタートした「眼力」

――悶々とされていたのですね。

「もっと私にやらせてくれれば……」という感覚でしたね(笑)。しかしながら、2013年に転機が訪れまして、当時の役員から、業界でも圧倒的なパフォーマンスで注目されていた他社ファンドの「JPMザ・ジャパン」に勝つような日本株ファンドを作ろうという話が出て、すぐさま「私にやらせてください」と手を挙げました。「よし分かった! でも金はそれほど出せないぞ」という流れで、4000万円で私募ファンドとしてスタートしました。それが3年経って、2016年に公募化されたのが「眼力」ファンドです。

――最初は私募でスタートして公募化、その道のりは順調でしたか?

私募の運用成績は順調だったので、営業担当の部長に「公募にしよう」と言われてスタートしたのですが、最初は全然売れず、純資産残高は10億円程度でした。2016年に会社の合併があってアセットマネジメントOneとなり、日本株の運用に注力するようになったこと、3年経ってパフォーマンスが評価されたことやR&Iファンド大賞もいただけたことなどもあって、少しずつ残高も増えてきました。

――大変思い入れのあるファンドなのですね! 足元の状況を伺いたいのですが、コロナショックからの戻りが早く、すでに以前の高値を超えるなどパフォーマンスは良好です。何が功を奏したのでしょうか?

こういう危機の時に運用姿勢として大切にしているのが、「ディフェンシブに走らない」ということです。守りに入ってディフェンシブ銘柄を買ってしまうとマーケットが戻る時に株価が戻らなくなります。守りに走らず、戻り局面で評価される会社、より成長性の高い銘柄を安く買えるチャンスだと考えてコツコツ投資していきました。

通常このような相場では、最初にTOPIXなど指数構成銘柄の株価が戻り、相場全体の水準訂正が行われます。その後に、成長株や業績が伸びる銘柄に投資マネーが向かうので、この局面でファンドの基準価額が大きく上昇することを目指します。今回も、ある程度戻りが遅れるのは仕方がないと覚悟して投資していたのですが、想定より早く戻した、というところです。

――新型コロナウイルスというこれまでにない特殊要因で株価が下がる中、特に意識して投資した銘柄などはありますか?

コロナ禍でも業績を伸ばしていけるところ――ECやオンラインなど新サービスを手掛けている会社や、短期的に業績悪化は避けられないものの、経済活動がある程度戻ってきたらコロナショック前の業績を上回ることが期待できる銘柄などです。

例えば企業研修を手掛ける会社などは直接ダメージを受けている段階ですが、オンライン化など顧客に必要な新サービスを提供することで、経済の回復局面では高いシェアを取れる可能性が期待できます。そういう銘柄を探し、先回りして投資しています。

――コロナ禍の影響で良い企業、ダメな企業が二極化する。だからこそ、相場全体に投資するのではなく、アクティブファンドが有利と最近言われたりもします。その辺りの視点も含めて、“アフターコロナ”の世界をどう考えるか、お聞かせください。

グローバル展開して数量を増やすというよりも、新しいテクノロジーで成長するスピードの速い会社がどんどん出てきています。投資対象としても魅力的な会社が次々に出てきていて、日本でもテクノロジー化が急速に進むと思っています。国内要因だけで成長する企業も多くあり、米中対立など世界の出来事を気に掛なくても投資チャンスがありそうです。

もともとコロナショックの前からテクノロジーなどそちらで成長できそうなテーマ、例えば「高齢化」や「労働人口減少」など、個別のさまざまな成長市場で良い会社が出てくるのではないかと重点的に調べたり、ポートフォリオも思い切ってそちらに振り切ったりしていました。しかし、従来であれば2、3年かけて起きていたことが今回は一気に進んだので、その変化を企業調査で確認しながら、さらに新しい会社を探しています。

好奇心を絶やさず、企業価値の成長性を見極める

――まさにファンドマネジャーの腕の見せどころですね! ところで関口さんは、ファンドマネジャーに求められる資質とは何だと思いますか?

やはり謙虚な姿勢です。長く運用に携わっていると、「今の株価はおかしい」などと考えてしまいがちですが、自分の考え方のほうが間違っていると疑ってかかることで、さまざまな変化に対応できるようになります。

それと常に好奇心を持つこと。新しい会社、新しいサービス、市場を調べる。とにかく新しいことをやってみることが大事です。

――そういう好奇心を持ち続けられるのはなぜでしょう?

模範となる先輩たちがいるからでしょうか。例えば60歳近いのにFacebookを始めるなど、新しいチャレンジをする方がいる。そういう意識が運用の世界では重要だったりします。長く続けていると保守的になりがちですが、自分にハッパかける意味でも常に面白がる。たとえそれが無理やりであっても(笑)。

――改めて、関口さんにとっての運用哲学とは、一番重要視されているものは何ですか?

企業価値の成長が株価につながり、それに投資すること、です。

企業価値とは将来の利益、期待される利益です。そして、その企業の成長や利益を作っているのは、「人」だということ。例えば、半導体の材料一つにしても、反応容器を持っているから作れるわけではありません。それを開発できる、正確に作れる技術職のスタッフや製造ラインの人々がいるから、誰にもマネできないものが作れるのです。何が企業価値の源泉だろうと考えると、やはり経営者をはじめそこで働いている「人」なのだろうと思います。

――最後に、投資家の皆さまにメッセージをお願いします。

「眼力」は日本株の上げ下げに投資しているわけではありません。あくまで日本株の中から成長していく企業を見極め投資する、というコンセプトで運用しています。

投資家の皆さまからすれば、この目先の変化の激しい時代、日々株価や基準価額を見ていると落ち着かないとは思います。しかし、このような時だからこそ、中長期で企業の成長というものに投資して、それをリターンにつなげていくことが重要だと私は考えています。

コンセプト通り真面目にやっていけば、中長期的には基準価額を上げることができる。もしできていなかったとしたら、私がサボっているのか、好奇心が失せたのか、足が動いていない、ということ。決してそうはなりませんので、どうぞこれからも末永く見守ってください。

■インタビューを終えて

自らの仕事を愛してやまない匠だけが持つ軽やかさを感じる関口さんへのインタビューでしたが、最後に「ナスダックには負けたくないですね」とポツリと、でも力強くおっしゃったのが、とても印象的でした。

投資家の皆さまの期待と自分の運用とでミスマッチが起こらないようにしたい、と、レポートなど情報発信も積極的にされています。月次レポートには、関口さんが勝った「成果」となる上位10銘柄が並んでいます。そちらの企業を見て、日本の未来図を想像してみるのも面白いかもしれません。