お金と夢を握りしめて、アメリカへ
我が家が東京から米国バージニア州に引っ越したのは2000年のことでした。東京の大学で研究者として働いていた夫が、バージニア州の大学にポストを得たのがきっかけです。私はIT市場アナリストの仕事を辞め、2歳半の息子を連れての引っ越しでした。
東京では家賃1万円の公務員宿舎に暮らしていました。共働きで2人分の収入があったことと、贅沢に暮らさなかったこともあって5年ほどで 2500万円の貯金ができ、そのお金と夢を握りしめて太平洋を渡り、アメリカでの新生活をスタートさせました。
アメリカの大学にはテニュア制度※1というものがあって、教員は通常6年をめどにテニュア審査を受けます。これに通れば、その後は大学での半永久的なポジションが約束される反面、もし通らねばその大学を去り、どこか他に仕事を見つけなくてはなりません。これはダブルインカムからシングルインカムになり、子どもを抱えて海を渡った私たち夫婦にとっては大きなリスクでもあり、お金については「職を失ったときにも、大きな負債はない状態で次のステージに移れるように」と考えていたのでした。
※1編集部注:終身在職権。教員の自由な教育研究活動を保障するため、心身に障害を負うなど教育研究活動の継続が不可能になった場合を除いて、終身(定年まで)当該大学の教員としての身分を保障する制度。
そんなわけで「大きな借金はしない」というのが新生活におけるミッションでした。まず家探しです。2000万円の頭金で、780万円のローンを組み2780万円の家を買いました。アメリカの住宅購入時における頭金の比率は10%が目安ですが、私たちの場合は72%。しかしながら、外国人でクレジットヒストリー※2がなかったため、利子は今では考えられないくらい高い9%台でした。利子が高くても、ローン額が少ないので月々の返済は約7万円以下(30年ローン)と、その辺りのアパートの賃料よりも安く済んでいました。
※2編集部注:クレジットカードやローンの利用履歴のこと。ソーシャルセキュリティナンバー(SSN)と紐づけられており、アメリカでのお金に関する信用度の評価につながる。
2500万円のうち2000万円を家に使った後は、400万円で車を2台買い、50万円で家具を買い、残りの50万円を何かのときのために残しておく……という寸法でした。今考えるに、最初に大きな借金をせずに、基本的に現金で必要なものを揃え、生活をスタートできたことは大きな幸いだったと思います。アメリカでは多くの学生が大学に通うために、多額のスチューデントローン※3を抱えて卒業します。それほど多くない給料からローンを返済しながらの生活では、そもそもローンの返済自体が大変なこともあり、返済不能に陥ることもあるうえに、返済はなんとかできても将来の結婚資金や家の頭金などを貯める余裕もないだろうと想像します。負債が免れ得ない場合もあるとは思いますが、投資と同様、取れるリスクに見合った借り方をし、大きな買い物は十分現金を貯めてからする(70%も貯める必要はないのがほとんどですが……)、というのがパーソナルファイナンスの基本ルールだと今でも思っています。
※3編集部注:ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)の「家計負債・信用に関する四半期報告書(Quarterly Report on Household Debt and Credit)」によると、2020年第1四半期のアメリカにおける学資ローン負債総額は1兆5400億ドルにも達する。