日米協調介入、155円の壁は破れず:米国の真の狙いを読み解く

今回は「協調介入とFIMAレポ」について解説します(スライド1)。

日米の通貨当局が7月31日、円買いの協調介入に踏み切ったことが明らかになった。ドル円は155円23銭まで下落したが、4月30日から5月6日にかけて行われた日本の単独介入後の安値155円04銭を下抜けできなかったことから、多くの市場参加者が155円を強力なサポートとして意識することになりそうだ(スライド3)。

今回の協調介入に関して、米国からみた意義や目的として、日本の米国債売却による長期金利上昇の回避、対日貿易赤字拡大の阻止、アジア通貨安への波及の阻止が指摘されている。しかし、現時点で日米の貿易収支の不均衡は政治問題化しておらず、国民の関心も低い。また、ベッセント財務長官が説明するアジア通貨安への配慮との点も、アジア通貨がそれほど下落しているわけではないことから、協調介入を正当化する為の口実とも映る。結局、今回の米側の一番の狙いは、日本の(介入資金を得る為の)米国債売却とそれに伴う長期金利の上昇を避けることだったと考えられる。一方、今回の協調介入に対し、国際的な理解は得られていない可能性が高い。今回、FRBはユーロ円で介入した模様だが、ECBには事後的に外貨準備の通貨比率の変更との説明がなされたことがFT紙によって報じられている。また、そのユーロ円で介入したことは米国がドルを売りたくないことの表れでもある。しかも、今後についてはECBもユーロ売りには難色を示すと思われ、追加的な介入に対するハードルも高いだろう(スライド4)。

米国がドル売りを嫌う背景:経常収支赤字と過去との相違点

 米国がドル売りを嫌がる理由は今年1月のレートチェック後のドル安ではないか。当時、ドル指数が96を割り込んでいる。これはドル指数でみるとトランプ大統領就任後の最安値である。当時、ベッセント財務長官も日米協調介入に対し、「絶対にない」と発言するなど、ドルを売りたくない本音が当時から透けていた(スライド5)。

米国がドル売りを望まないのは経常収支赤字国だからとみられる。経常収支には二つの側面がある。一つは貿易収支、サービス収支、第一次および第二次所得収支の合計であるとする国際収支のものだ。もう一つはISバランスである。これは、民間部門と公的部門の貯蓄投資差額の合計を表している。米国の場合、公的部門に加え、民間部門も資金が不足しており、経常赤字となっているが、その不足資金のファイナンスを海外勢による米国債投資依存している。仮に米国がドル安に誘導するのであれば、海外投資家による米国債投資は手控えられることになり、経常赤字のファイナンスに支障をきたすだろう。この為、米国はドル売り介入には慎重なスタンスを維持する可能性が高い(スライド6)。

また過去の協調介入に比べ、今回は相違点も多い。例えば1998年6月の日米協調円買い介入の場合、前年のアジア通貨危機がまだ収束していなかった。日本経済の急速な悪化や円安による当時のアジア経済への悪影響が警戒されていた。加えて当時の日本は利上げできる環境にはなかった。一方、足元の円安に対し、グローバルレベルでの警戒感は強くない。現在の日本はインフレであり、通貨安を止めるためには、まず値上げという処方箋を使うべきというのが国際的な目線であろう。2000年9月のユーロ買いG7協調介入も、国際的な通貨体制の枠組みを維持する狙いがあったと考えられる。さらに当時のECBは政策金利を4%台まで引き上げるなど、自助努力を最大限行っていた(スライド7)。

介入資金確保の新たな選択肢「FIMAレポ」とは?

今週はベッセント財務長官がFRBに対してFIMAレポ枠を拡大するよう要請したことも報じられている。FIMAレポはニューヨーク連銀に口座を持つ中銀や国際通貨当局が米国債を担保にドルを受け取る取引である。これを介入資金として転用することが許容されるのであれば日本は米国負債を売却することなく介入資金を入手することが可能となる(スライド8)。

もっともこの制度が活用できるからといって無制限に介入できることにはならない。引き続きドルを調達できるのは担保として供給できる米国債の範囲内であり、金額面での制約は残る。また取引最終日にはドルを返還しなければならない。もし調達したドルを売っていた場合、ドルを買い戻すか米国債を売却してドルを調達する必要もある。また、技術的にはレポ取引のロールオーバーも可能だが、長期間の延長はFRBが日本に対してドル建て融資を実行するようなものだ。中央銀行のバランスシートの管理上それが適切とは考えにくく、延長を許容するにしても限度はあるだろう(スライド9)。

協調介入で相場トレンドは変わるのか?ドル円は155-160円レンジへ

 また協調介入で相場のトレンドが大きく変わるかといえばそうでもない。例えば、1998年の場合、6月に協調介入に踏み切ったが、ドル円が高値をつけたのはその2カ月後の8月である。また、10月以降の急落も協調介入ではなく、ロシア通貨危機やLTCMの破綻などを受けた信用不安の高まりによって、大規模な円の買戻しが生じた結果である。加えて1999年に入ると日本の不良債権処理が進展するとの期待が高まり、対日証券投資が活発化したことにより、ドル円は101円台まで続落した。時期が近いことから見誤りやすいが、協調介入でドル円のトレンドが変わったわけではない(スライド10)。

一方、先ほど発表された7月の米雇用統計が予想を大きく下回った。このため、9月の利上げ観測が後退している。協調介入と合わせ、ドル円の上値は重くなりそうだ(スライド11)。

一時は、9月利上げとの見方も高まっていたが、FRBは利上げ前に労働市場の改善をもう少し確認したいと思われる。仮に、9月に利上げをするのであれば、ウォーシュ議長が8月下旬のカンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(いわうるジャクソンホール)で何らかのメッセージを発するとみられ、注目される(スライド12)。もっとも、余程のインフレ圧力とならない限り、9月や中間選挙直前の10月の利上げは見送られ、現時点では12月利上げの可能性が高いのではないか。

協調介入でも155円を下抜けできなかったため、155円は強いサポートとして意識されそう。ただし、雇用統計を受けて利上げ観測は後退している。来週の米消費者物価指数次第では、利上げ観測が再び台頭する可能性もあるが、160円の大台は遠のいたと考えられる。協調介入があった点も踏まえると従来の160円から165円のレンジから155円から160円のレンジに切り下がったと考えられる。そのほかでは、FIMAレポなど引き続き追加的な日米協調に関する報道には注意が必要だ。一方、日本の短期実質金利がマイナス圏にとどまる限り円安圧力も根強く残るとみられ円高へのトレンド転換までは見込みにくい。来週以降、上下ともに動きにくく、下旬のジャクソンホール待ちとの雰囲気が強くなるのではないか(スライド13)。

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